絶望のなかのほほえみ――カンボジアのエイズ病棟から

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後藤勝著
定価2000円+税
A5横判/96ページ・オールカラー/2005年初版
ISBN4-8396-0182-8 C0030 Y2000E
●書評

【関連書】カンボジア──僕の戦場日記 

 3年にわたるカンボジア、バッタンバン州のエイズ病棟の記録です。そこでは、 死は日常でした。しかし、彼らは誰もうらまず、ほほえみさえ浮かべて、死の病 いに立ち向かっていきました。衝撃と感動の写真集です。

【本文から】

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 モム
 2002年8月。薄暗い病室で1人の女性が娘にお粥を食べさせていた。28歳になる モム。まるで老婆のように痩せ衰えている。
 彼女は汗を吸って汚れたシャツをまくり上げた。あばら骨が浮き出て、骨と皮 だけになった彼女の体を見て、僕は言葉をなくした。
 「体がこんなに痩せてしまった。体に火がついたように、ずっと火照ってい る。このまま私は灰のように枯れてしまうのかしら」
 写真を撮るべきかどうか、迷った。カメラバッグを肩から下ろし、窓の外の景色 に目を向けた僕に彼女は言う。
 「ほら、私の写真を撮りなさい」  僕はカメラを持ち、ファインダーを覗いた。そこには痩せて生気を失った女性 の姿があった。彼女はため息をつき、小さく声を上げた。
 「早くこの苦しみから逃れたい」
モムに死が訪れたのは、それから1ヵ月後だった。死の数日前、彼女は自ら娘を 孤児院に送ったという。苦しさから解放された喜びなのか、モムの死に顔はほほ えむように優しかった

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