3年にわたるカンボジア、バッタンバン州のエイズ病棟の記録です。そこでは、
死は日常でした。しかし、彼らは誰もうらまず、ほほえみさえ浮かべて、死の病
いに立ち向かっていきました。衝撃と感動の写真集です。
【本文から】
モム
2002年8月。薄暗い病室で1人の女性が娘にお粥を食べさせていた。28歳になる
モム。まるで老婆のように痩せ衰えている。
彼女は汗を吸って汚れたシャツをまくり上げた。あばら骨が浮き出て、骨と皮
だけになった彼女の体を見て、僕は言葉をなくした。
「体がこんなに痩せてしまった。体に火がついたように、ずっと火照ってい
る。このまま私は灰のように枯れてしまうのかしら」
写真を撮るべきかどうか、迷った。カメラバッグを肩から下ろし、窓の外の景色
に目を向けた僕に彼女は言う。
「ほら、私の写真を撮りなさい」
僕はカメラを持ち、ファインダーを覗いた。そこには痩せて生気を失った女性
の姿があった。彼女はため息をつき、小さく声を上げた。
「早くこの苦しみから逃れたい」
モムに死が訪れたのは、それから1ヵ月後だった。死の数日前、彼女は自ら娘を
孤児院に送ったという。苦しさから解放された喜びなのか、モムの死に顔はほほ
えむように優しかった