学生のためのフィールドワーク入門

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アジア農村研究会編
定価2000円+税
四六判/256ページ/2005年初版
ISBN4-8396-0185-2 C0030 Y2000E



 アジアの各地でフィールド調査をしたいという大学生・院生が増えています。しかし、観光旅行と違い、調査となると、現地サイドとの交渉やらなにやら、けっこう大変です。トラブルを避け、有意義なフィールド調査をするための入門書がほしい・・・。そうしたニーズに応えてできたのがこの本です。編集を担当した「アジア農村研究会」は東京大学桜井由躬雄教授の提唱で組織された院生・大学生有志の団体で、過去13年間、アジア各地で調査実習をやってきました。その豊富な経験の蓄積をもとに「本当に役に立つ」本ができました。

【目次】

□第1部 導入編□
序章 アジア農村研究会と地域学/桜井由躬雄
第1章 フィールドワークの方法論
    1.アジア農村研究会
    2.地域とは:フィールドワークの対象
    3.フィールドワーク
    4.集団調査とインターディシプリン
    5.調査の手順と方法r> □第2部 マニュアル編□
第2章 調査の準備
    1.調査計画の立案
    2.国内における準備活動
    3.調査を始める前に
第3章 広域調査
    1.調査準備
    2.広域調査の実施
第4章 測量
    1.測量の目的と方法
    2.測量実習と本調査
第5章 調査票の作成と活用
    1.調査票作成の方法
    2.調査票項目の検討と現地語訳の作成
    3.入力フォーマットの作成
    4.調査地での調査項目の修正
第6章 インタビュー
    1.出発前の準備     2.インタビュー
    3.データ整理
第7章 調査環境
    1.衣食住について
    2.生活・健康管理について
    3.調査中の金銭管理
第8章 調査後の過程
    1.調査地を離れる前に
    2.帰国後

     □第3部 実践編□
第9章 上海調査/川島 真
    1.調査の由来
    2.上海社会科学院との事前調整(許認可)
    3.村側との事前調整(具体的調査対象)
    4.調査直前の儀式・調査内容再調整
    5.調査の実施@戸別調査+家族史
    6.調査の実施A行政・企業聞き取り
    7.調査の終了
    8.後日談――2002年の花橋村
第10章 台湾調査/青木 敦・李 季樺
    1.調査概要
    2.台湾調査雑感――台湾人研究者の視点から
第11章 ペナン調査/相原佳之
    1.調査地決定から事前準備、出発まで
    2.現地調査の経過
    3.調査過程での問題点など
    4.別働隊@住居調査
    5.別働隊A信仰調査
    6.村落再訪
第12章 マレーシア・スランゴル州調査/坪井祐司
    1.調査地の決定と事前準備
    2.調査の運営
    3.調査の形態
    4.調査の内容
第13章 沖縄調査/渡辺美季
    1.調査の由来
    2.事前準備
    3.調査の概要
    4.聞き取り
第14章 南タイ・北部マレーシア広域調査/黒田景子
    1.調査地の決定と事前準備
    2.調査形態と日程
    3.調査の内容
第15章 中国ムスリム・コミュニティにおける「小児錦」調査/黒岩 高
――サンプリング調査の一例として――
1.調査の準備
2.調査の実施
◇調査準備のためのホームページ
◇フィールドワーク準備のための基本文献                   


【執筆者】(50音順)

相原佳之(あいはら よしゆき) 東京大学大学院人文社会系研究科(アジア文化研究専攻)博士課程
青木 敦(あおき あつし)大阪大学大学院文学研究科助教授
安藤潤一郎(あんどう じゅんいちろう) 東京大学大学院人文社会系研究科(アジア文化研究専攻)研究生
小川有子(おがわ ゆうこ) 東京大学大学院人文社会系研究科(アジア文化研究専攻)博士課程
川島 真(かわしま しん) 北海道大学大学院法学研究科助教授
國谷 徹(くにや とおる) 東京大学大学院人文社会系研究科(アジア文化研究専攻)博士課程
黒岩 高(くろいわ たかし) 武蔵大学文学部日本・東アジア比較文化学科助教授
黒田景子(くろだ けいこ) 鹿児島大学法文学部人文学科教授
桜井由躬雄(さくらい ゆみお) 東京大学大学院人文社会系研究科教授
坪井祐司(つぼい ゆうじ) 東京大学大学院人文社会系研究科(アジア文化研究専攻)博士課程
東條哲郎(とうじょう てつお) 東京大学大学院人文社会系研究科(アジア文化研究専攻)博士課程
村上 衛(むらかみ えい) 横浜国立大学大学院国際社会科学系研究科助教授
李 季樺(り きか) 東京大学大学院人文社会系研究科(アジア文化研究専攻)博士候補者
渡辺美季(わたなべ みき) 日本学術振興会特別研究員


【はじめにより】

 本書は、アジア地域の研究に関心を持つ大学生や大学院生が初めてアジアでフィールドワークを行なう時に必要となる知識や技術、およびその習得方法について、学生・院生たち自身の経験をもとに概説するものである。
 急速な経済発展に伴い、工業化や都市への人口移動が注目されているアジア地域であるが、アジアの人口の大半は現在なお農村に居住している。これは、アジア地域の理解のためには農村の理解が不可欠であることを意味している。そのためには、文献調査のみに頼るのではなく、実際に調査地に赴くことで、問題意識を深める必要がある。実際、近年、アジアに研究調査として赴く大学生や大学院生の数は急激に増加している。しかし一方で、我々学生がフィールドワークの方法や技術を学ぶ機会は非常に少なく、個々の学生が、基本的な方法論を習得しないままに調査に赴いてしまうケースもままある。これまで、フィールドワークは個人で行なわれることが多く、その方法論も調査者の個人的経験に基づく場合が多かった。
本書の編集主体であるアジア農村研究会は、このような状況の改善、すなわち学生たちにフィールドワーク実習の機会を提供することを目的として、1993年、東京大学桜井由躬雄教授の提唱のもとに設立された、学生主体の研究会である。それ以来、毎年3月上旬から中旬にかけての2週間、アジア各地に赴き、桜井教授を始めとする諸先生方の指導を受けつつ、フィールドワーク実習を実施してきた。実習では、準備段階からほぼ全てを学生自身の手で行ない、インタビューを中心とする調査技術を学んできた。毎年、多くの大学から、さまざまな専門分野の学生たちが参加してきている。これまでに実施した調査実習の概要は以下の通りである。

1993年3月 東北タイ広域調査実習
1994年3月 中部タイ・ナコンパトム県調査実習
1995年3月 中国・上海市松江県調査実習
1996年3月 台湾・桃園県復興郷調査実習
1997年3月 インドネシア・スマトラ島広域調査実習
1998年3月 マレーシア・ペナン島調査実習
1999年3月 マレーシア・スランゴル州調査実習
2000年3月 日本・沖縄県浜比嘉島調査実習
2001年3月 マレーシア・スランゴル州調査実習
2002年3月 南タイ・北マレーシア広域調査実習
2003年3月 北タイ・ランプーン県調査実習
2004年3月 ベトナム・ハノイ市調査実習
2005年3月 ビルマ広域調査実習

 本書は、これらの調査実習を通して得られたフィールドワークのためのノウハウや経験則の数々をまとめて、多くの学生・院生の参考に供しようとするものである。
 本書は、以下のような構成となっている。第1部「導入編」では、本書でいう「フィールドワーク」とはいかなるものであるのかを概説する。序章では、本研究会の顧問である桜井教授が、フィールドワークの意義とその学問的位置づけについて論じる。続く第1章は、本書におけるフィールドワークの方法論を概説し、併せて本書全体の内容を概観するものである。
 第2部「マニュアル編」が本書の中核部分である。第2章「調査準備」から始まり、測量、調査票の作成、インタビューなど個別のトピックについて、具体的な作業手順、実践における注意事項などを順を追って解説する。ここでは、さまざまな状況に対応できるよう、できるだけ一般的な記述を心がけている。
 第3部「実践編」では、本研究会の調査実習の中からいくつかの実例を取り上げ、第2部で説明したマニュアルが実際にどのように運用されたかを示す。こちらでは、実際の調査の過程で生じたさまざまな問題と、それに対する対処法について、個別具体的に述べられる。
 アジア農村研究会はフィールドワーク実習のための研究会であるが、その目的はアジアの諸地域を理解することであり、学問的成果をあげることではない。したがって本書も、学生のためのフィールドワーク・マニュアルではあるが、必ずしも論文を書くためのものではない。本書のねらいは学生・院生諸氏のアジア理解に多少とも貢献することである。



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