NGOの選択

グローバリゼーションと対テロ戦争の時代に

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日本国際ボランティアセンター(JVC)著
定価1900円+税
A5判並製・232ページ/2005年初版
ISBN4-8396-0188-7 C0030 Y1900E


 今、NGOは岐路に立たされています。時代の花形のように脚光を浴びる一方で、これまでにように政治と無関係ではいられなくなったからです。設立25周年を迎えた日本のNGO草分けであるJVCのスタッフが外部の識者と共に、NGOのとるべき道を真摯に問い直しました。

【目次】

はじめに/清水俊弘
第T部 転機に立つNGO
◇第1章 歴史の中のNGO/熊岡路矢
1.冷戦構造下の国際協力NGO
2.冷戦構造の崩壊以降、とりわけ「9・11」事件以降のNGO
◇第2章 共生社会の水先人たち――試される現場に根ざした「非政府」の提言力/大和 修
1. 強者の論理だけでよいのか
2.熱を帯びる政策提言づくり
3.人道支援に「構造」の壁
4.現場を持つ強みが議論を支える
5.独立性支える実利感覚を
◇第3章 新しいNGOの方向性を求めて/高橋清貴
1.NGOの政治1:国家とNGOの関係
2.NGOの政治2:普遍性を求める国連とNGO
3.NGOの政治3:「持続性」はNGOの持続性か

第U部 時代の現場から
◇第1章 アフガニスタン、対テロ戦争の時代を生きる/谷山博史
1.9.11とアフガン戦争
2.復興援助のパラドックスとJVCの活動――問われるNGOの存在
3.軍・NGO・復興援助の関係
◇第2章 イラク、人道支援の現場から――悪化する治安情勢の中で継続する人道支援/原文次郎
@今も続く武力衝突
A被爆国日本のNGOとして
Bイラク市民社会とどうつながるか
C軍と人道支援――問われる人道支援の中立性・公平性
D緊急対応(Watch&Action)
Eイラク"復興"支援とは?
◇第3章 パレスチナ、誇りと希望を胸に/藤屋リカ
1.和平プロセスの崩壊と9.11以降
2.NGOはどう動いたか
3.JVCのパレスチナにおける活動

第V部 地域を作る
◇第1章 農というそれぞれの地の生き方に向けて/壽賀一仁
1.21世紀初頭の世界と農村
2.JVCの苦闘
3.具体性――「地立」と「自律」
4.誰とどうつながるか――農村開発から見えるビジョン
◇第2章 農民との対等な関係をめざして――カンボジア持続的農業と農村開発プロジェクト/山ア 勝
1.プロジェクトを通しての農村との関わり
2.住民主体の開発を実現するために
3. 農村にどのように関わるのか
4. プロジェクトを超えた関係へ
◇第3章 地域の人々がつながり、地域が動く―――タイの地場の市場づくり/倉川秀明
@農民たちの流儀
A農民の借金
B村の朝市づくりが始まった
C町に直売市場ができた
D消費者も加わった
E有機農業の広がり
F地域の人々がつながってきた
G他の地域との交流を重ねて
HNGOの役割、そしてめざすもの

第W部 日本の地域社会を強めるために
◇第1章 国益論から見たODAの潮流とNGOの位置どり/長瀬理英
1.国益からみた日本のODA
2.ODAの実際における「国益」の反映
3.ODAに対するNGOの位置どり
◇第2章 内なる「東アジア世界」と向き合う――北朝鮮人道支援とNGO/岡本 厚
@東アジアの「鬼子」日本
A偏見と差別意識の連鎖
B人道支援の"壁"
C「市民として」と「国民として」
Cナショナリズムの高揚の中で
最も近く遠い国に向き合うこと/寺西澄子
◇第3章 市民社会の中で裾野を広げる――地域密着型・市民参加型のNPO/NGOの8年間の実践/小川秀代
@市民社会づくりの入口に立つ日本
A「専業主婦」の女性たちの力
Bアジアの人たちとの共通課題
C平和政策から生まれた「WE21ジャパン」構想
D「もったいない」という日本文化への期待
E女性たちの未来への投資
F参加・分権・自治を基本にNPO同士がネットワーク
G年間50万人の社会貢献
H市民社会の広がりが未来への希望

あとがき/大野和興
JVC25年の歩み
JVC声明一覧

【はじめにより】

 1980年に日本国際ボランティアセンター(以下JVC)が発足して、今年で25年になる。インドシナ難民の支援に始まり、紛争時の緊急支援、紛争後の生活再建支援、そして開発協力と世界の10ヵ国以上においてさまざまな経験を積んできた。
 この本は、JVC設立20年の節目に出版した『NGOの時代』(2000年、めこん)後の5年間の取り組みと、活動を取り巻く世界情勢の中で常に意識させられてきたNGOの担うべき役割について、改めて考察、提案する書である。
 私自身、JVCに参加して今年で18年になる。この間カンボジア、アフガニスタン、イラクなどさまざまな紛争地を見てきた。どの地においても、多くの一般市民の命が失われ困難な生活を強いられる実情を目の当たりにして浮かぶのは、どうしてこうなってしまうのだろうかという素朴な疑問である。私たちは何年経っても、紛争を未然に防ぐことはできず、結果的に起きてしまった紛争、戦争にリアクティブに反応する作業を続けている。そして、その作業は、いつの間にか「国際貢献」という美名の中に埋もれ、戦争をけしかけた当事者(国)と並んで、水を運び、建物を直し、怪我人の手当てをしているのである。こうして、「いったい、誰がこんなふうにしたんだ?」という問いは国際社会の中からも消え去っていく。特に、「9・11」事件を境に、報復と脅威への予防を口実に武力行使が正当化され、巻き込まれる市民の犠牲を黙認する空気も感じられる。
 他方、経済のグローバリゼーションが進んだことで、経済的な利権争いが紛争直後の「国際貢献」とオーバーラップし始めた。利権獲得の競争にますます拍車が掛かってきた昨今、NGOまでもが政府資金と一体となって、いち早く難民キャンプに旗を立てることに取り込まれている感がある。むろん、困っている人々に一刻も早く支援の手を差し伸べることは大切だ。しかし、NGOという非政府の立場での関わりは、単に迅速性だけで評価されるべきではなく、中立な立場から援助の政治性を緩和し、偏りの是正に声をあげてこそ、真価を発揮できるのではないだろうか。そして、もっとも大事なことは、そもそもなぜそのような状況になったのかという点をしっかりと問うことだ。
 今、私たちは、誤った政策を黙認するのでもなく、支援者にとってのわかりやすさを追求するのでもなく、他国のNGOと競争するのでもない、人道と人権の軸をしっかりと持った活動を続けるべきだと考える。

 2005年2月、JVC東京事務所にてすべての現場からスタッフが集まり、これからの10年の方向性を話し合う機会を持った。その結果、以下の方針を確認した。
 「JVCは、紛争、災害、そして構造的な貧困、差別の中で困難な状況にいる人々が、安心して暮らせる平和な社会を実現するために、@武力によらない紛争解決の具体的事例(現場の活動、アドボカシー、啓発)を積み上げる。また、グローバル化する世界の中で、人々の安定した暮らしを構築するために、A草の根の人々の相互扶助の強化と、環境に配慮した地域内循環の仕組みづくりを進める。そして、Bそれぞれの活動が持つ社会変革のメッセージを効果的に伝えることに注力する」
 本書では、その方針につながる背景にある考え方、あるいは提案を投げかけるため、今まさに時代の現場にいて具体的な活動に取り組むスタッフと、こうしたNGOの動きを大きな視野で客観的に見つめ続けている識者に執筆をお願いした。

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 多様な執筆陣によるメッセージが、平和で公正な社会の構築を目指す人々が前向きで建設的な議論をするためのたたき台となれば幸いである。
     日本国際ボランティアセンター事務局長 清水俊弘

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