小学生に英語を教えるとは? 

――アジアと日本の教育現場から

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河原俊昭編
定価2800円+税
A5判並製・336ページ
ISBN978-4-8396-0211-6 C8083

 小学生に英語を教えるというのはどういうことなのでしょうか?
   子供たちが英語ぺらぺらになるような「夢」だけが先行して、この問題をきちんと考えていないのではありませんか?
 それはどんな意味があるのか? どんな影響があるのか? 良いなのか悪いことなのか? 既に小学校教育に英語が取り入れられているアジアの各国ではどんな結果が出ているのでしょうか?
 英語教育専門家による現状分析と問題提起、現場教師からの具体的報告、小学校英語教育で先行するアジア各国の事例分析という三部構成です。

【編者:河原俊昭】
京都光華女子大学教授。金沢大学社会環境科学研究科博士課程修了、博士(社会環境科学)。専門は言語政策、アジア英語、英語教育。編著書に『世界の言語政策』(くろしお出版)、『外国人市民への言語サービス』(明石書店)、『アジア・オセアニアの英語』(めこん)、『外国人と一緒に生きる社会がやってきた』(くろしお出版)などがある。

【目次と執筆者】
まえがき――なぜアジアの英語教育が注目されるのか(河原俊昭、京都光華女子大学教授)

第1部 現状と問題提起
第1章 わが国の小学校英語教育の現状(川畑松晴、金沢学院大学教授)
第2章 非母語話者の積極的なALT活用について(徳地慎二、宮崎産業経営大学准教授)
  第3章 外国語とは英語なのか:多言語主義からの考察(高垣俊之、尾道大学准教授)

第2部 日本の教育現場から
第4章 英語嫌いを生み出さないためには(辻伸幸、和歌山大学教育学部附属小学校教諭)
第5章 児童主体のコミュニカティブな授業とは(前田みどり、金沢市立弥生小学校教諭)
第6章 小学校と中学校の連携をどう図るか (笠原鶴代、北九州市立上津役中学校教諭)

第3部 アジアの小学校の事例報告
第7章 韓国――英語教育政策の経緯と論点  (樋口謙一郎、椙山女学園大学専任講師)
第8章 台湾――加熱する早期英語教育 (相川真佐夫、京都外国語短期大学准教授)
第9章 香港――教員養成とその評価試験 (原隆幸、明海大学非常勤講師
) 第10章 フィリピン――英語公用語国の現状と展望 (河原俊昭)
第11章 フィリピン――融通無碍なバイリンガル教育 (小野原信善、香川大学名誉教授)
第12章 シンガポール――社会が必要としたナショナルプロジェクト(大原始子、桃山学院大学兼任講師)
第13章 ベトナム――理想と現実の違いを考える:指導要領、教科書、教師そして授業から見えてくるもの(八田玄二、椙山女学園大学教授)
第14章 インドネシア――多島国の英語教育 (仲潔、九州女子大学専任講師)
第15章 フィジー――フィジー人とインド人を結ぶ英語 (後藤田遊子、北陸学院短期大学教授)

むすび――どう考えればいいのか(河原俊昭)

【まえがきから】
 英語に、What is learned in the cradle is carried to the tomb.という諺がある。「幼いときに覚えたことは死ぬまで忘れない」という意味だが、たしかに、幼いときに学んだことは、心に深く刻まれ、大人になってからもいつまでも残る。その意味で、小学校の時代は大切な時期である。小学校で何をどのように教えるかによってその人の人生を決めてしまう、と言っても過言ではないだろう。
 長らく日本の初等教育の場では、外国語の教育は避けられてきた。小学生はまず母語である日本語をしっかりと勉強すべきという方針であった。英語は中学校に入ってからはじめて学習するものという考えが広く一般化していた。しかし、この情勢は今や変わりつつある。
 小学校へ英語の導入が進みつつある。2002年から、小学校でも「総合的な学習の時間」において、国際理解教育の一環として英語活動が行われるようになった。しかし、その活動は、小学3〜6年生で年間13〜15時間ぐらいであり(文科省 2007:19)、いわば英語に軽く触れる程度であり、英語教育とは言い難い。しかし、今後は小学校へ英語教育が本格的に導入されていく気配である。
 新聞報道によれば、文科省は、2008年度(平成20年)に予定されている学習指導要領の改訂の際は、小学校の教育課程の枠組みについては、「高学年で英語(外国語)活動を週1コマ(45分)程度設ける」方針のようである(朝日新聞2007年8月30日付け)。今度どのように展開するかは定かではないが、小学校へ英語教育を導入するという基本路線は変わらないものと思われる。
 日本では20年以上も前から、小学校への英語教育の導入が提案されてきたが、現実味を帯びるにつれて、ここ数年、英語教育関係者を中心に国民的な議論を呼び起こしてきた。賛成論、反対論、あるいは中間派からも議論は百出しており、関係者の中にはいささか食傷気味の人もいよう。この本の執筆者たちも、あえて新たに議論に参加するわけであるが、どのような視点からこの問題を見ていくか明確にする責任がある。
 英語教育の動向は、日本の国内の様子だけから論じても、なかなか客観的な視点が取りづらい。井の中の蛙にならないためにも、日本から離れた視点を持ってみる必要がある。そのような意図から、この本では、アジアという視点を取り入れてみたい。


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