インドネシアを旅するとジャワ舞踊やバリ舞踊を見る機会がよくあります。華麗にして深遠、凄絶にして端正なその魅力に惹かれる人は多いでしょう。しかし、舞いの意味するところや由来について知ろうとするとまったく手がかりがなく、途方に暮れてしまいます。
本書は「ワヤンの」松本亮さんが40年にわたってジャワとバリの各地で鑑賞した舞踊を総括的に紹介するとともに、その物語と背景について詳しく解説したものです。140点のカラー写真は著者の舞踊研究の集大成とも言えるもので、戸田ツトムさんのすばらしいレイアウトと相まって、まさに夢幻の世界にいざなってくれます。
【目次】
はじめに キドゥンと御詠歌
一 憑依舞踊の周辺
サンヒヤン・デダリ(バリ)…………………瞼の奥にひろがる宇宙
ルジャン(バリ)………………………………内なる心への祈り
ジャティラン(中部ジャワ)…………………竹編み馬の大道芸
ワリライスとシントレン(チルボン地方)…憑依とマジックに擬装されて
アング・プトリ(ジョクジャ南方)…………木偶人形ぶり少女たちの隊形舞踊
ベロカン(チルボン地方)……………………天に願意をとどける獅子舞
【憑依と化け物について】
二 インド、そしてジャワからバリへ吹く風にのって
マハーバーラタとラーマーヤナ
付記=ワヤン・クリ(ジャワ)=人生のありようを語る瞠目すべき文学・処世観の世界
付記=ワヤン・クリ(バリ)=魔除けへの祈り
付記=ワヤン・クリから派生したワヤン(ジャワ・バリ)=ワヤン・ゴレ、ワヤン・オラン、ワヤン・ウォンなど
バロン・ダンス(バリ)…………スドモロ物語(ジャワ)を根として
ケチャ(バリ)……………………一九三〇年代に構成された観光舞踊の粋
ラマヤナ・バレエ(ジョクジャ)…一九六一年創作の野外大劇場用舞踊
アルジュノの饗宴(ジャワ)………マハーバーラタによる宮廷舞踊
三 中・近世ジャワ文学の舞踊化
中・近世ジャワ文学のあらまし
◎パンジ物語=パンジ王子の貴種流離伝説
付記=ワヤン(ジャワ・バリ)=ワヤン・ベベル、ワヤン・トペン、ワヤン・ゴレ・チュパなどの演目として
トペン(チルボン地方)…………仮面舞踊の花
クロノ・トペンほか(ジャワ)…宮廷の仮面舞踊
ガムブ(バリ)……………………ジャワ舞踊からバリの歌舞劇へ
付記=バリ版パンジ物語『マラト』抄
レゴン・クラトン(バリ)………バリ舞踊の花
◎ダマルウラン物語 月光の貴公子ダマルウランの英雄伝説
ラングンドリヤン(中部ジャワ、ソロ)…女性による宮廷歌舞劇ほか
◎メナク物語 ペルシアに由来するイスラム教布教の書
スリムピ(中部ジャワ)…ジャワ宮廷舞踊の基本
◎ババド 王朝年代記
トペン・パジェガン(バリ)……バリ王朝の伝記を語る仮面舞踊
チャロナラン(ジャワ・バリ)…ジャワ民話からバリの魔除けの芸能へ
付記=ジャワ版「チャロナラン」物語
ブドヨ(中部ジャワ)……………ジャワ宮廷舞踊の精華
おわりに
地図
参考文献
索引
【著者はこんな人】
松本亮(まつもと・りょう)
和歌山県に生まれる。幼少年時代を通じ、熊野・那智勝浦町の海と山のはざまで遊び夢みる。
1948年、大阪外国語大学フランス語学科卒。
1951年、詩人金子光晴を訪ね、同氏没年(75年)まで親交をつづける。
1953年、バレエ「白狐」(台本、演出)を松山バレエ団により上演。1970年「高野聖」なども。
1968年、はじめてインドネシアを旅し、ワヤン上演を見る。
主な著書=『運河の部分』『ポケットの中の孤独』『人間、吹かれゆくもの』〈以上詩集〉。
『アンコール文明』『ジャワ影絵芝居考』『マハーバーラタの蔭に』『ワヤン人形図鑑』
『ジャワ夢幻日記』『悲しい魔女』『ラーマーヤナの夕映え』『ワヤンを楽しむ』『新雑事秘辛(金子光晴との対話集)』ほか。
編訳=『ワヤン・ジャワ、語り集成(マハーバーラタ編)』(語り=キ・ナルトサブド)ほか。
1998年、インドネシア共和国大統領より文化功労勲章を受ける。
2005〜11年、7年連続で、ジョクジャの諸会場(ヨグヤカルタ特別州政府招聘)、ソロのマンクヌゴロ王宮での、創作ワヤン(「まぼろしの城をめざす」「水のおんな」「天人の羽衣」「海が見たい」「野獣、恋のバラード」など)の上演。継続中。