タイの基礎知識(アジアの基礎知識1)


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 柿崎一郎

 定価2000円+税
 A5判上製・248ページ・図表写真多数
 ISBN978-4-8396-0293-2 C0330

 【関連書】 シンガポールの基礎知識   

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 一気に読めるタイ概説です。苦労せずにタイについての「必要最小限」の知識が身につきます。
すべりだしは→タイのどこが好きかと言われれば、「暑い」、「おいしい」、「人なつっこい」、「安い」などの形容詞が思い浮かぶが、これらはあくまでも私の主観でしかない。とはいえ、私だけではなく、多くの人がこのような印象を抱くのではなかろうか。
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【タイはどんな国か】

なぜタイに惹かれるのか?

 タイは東南アジア大陸部、インドシナ半島の中央にある。インドシナ半島はユーラシア大陸の南東に突き出た大きな半島で、さらにそこから細長いマレー半島が南へと延びている。タイの領域はそのインドシナ半島からマレー半島にかけて広がっており、面積は五一・三平方キロメートル。日本の約一・五倍である。人口は二〇一二年推定で約六七九〇万人。日本のおよそ半分程度となる。首都はバンコクで、日本との時差はマイナス二時間となる。太平洋側のタイ湾とインド洋側のアンダマン海と二つの大洋に接しており、西のミャンマー、東北のラオス、東のカンボジア、南のマレーシアと国境を接している。
タイと聞くとゾウを思い浮かべる人もいるかもしれない。日本でもタイから来たゾウが各地の動物園で飼育されており、タイの観光地でゾウに乗ったことのある人もいるだろう。特にタイでは白ゾウは王者の象徴として崇められており、かつてのタイの国旗にも赤地に白ゾウが描かれていた。タイの国土の形はこのゾウの顔に似ており、マレー半島がちょうどゾウの鼻となる。もちろんこれは何の必然もなく、偶然そのような形になっただけであるが、このゾウの顔の形が完成したのは一九〇九年のことであり、今から一〇〇年ほど前でしかない。
 タイに惹かれる日本人は多い。タイに来る日本人は年間一〇〇万人を超えるが、その多くはタイを気に入って帰っていく。特に目的もなくタイに来て、そのまま長期間滞在してしまう人もいる。これはいわゆる「タイにはまる」人たちである。近年はタイで就職したいという日本人も増えており、老後の生活の場としてタイを選ぶ人も少なくない。彼らがそのような決断をした理由は多岐にわたろうが、何らかの共通項も存在するはずである。なぜ日本人はタイに惹かれるのであろうか?
 かく言う私自身もタイに惹かれてタイと関わるようになった日本人の一人である。最初にタイに来たのは中学生の時である。父の仕事の関係で私は中学三年間をタイで過ごした。その時は特にタイが好きというわけでもなく、日本人社会の中で暮らしていたのでタイの人との関わりもほとんどなかった。それでも、学校でのタイ語の授業では一番上級のクラスまで進み、友人とバスに乗ってバンコク市内を回ったり、学校の帰りにあちこちの店に寄って飲んだり食べたりしてくることはあった。特に好きではなかったと思うが、嫌いでもなかったのであろう。
 その後、高校は日本であったが、三年生の時、大学で何を学ぶかを考えた末、最終的にタイ語を勉強することに決めた。かつてタイに三年間住んでいたので、その経験を活かすにはタイ語ができたほうがいいと思ったからだが、おそらくその根底には懐かしさもあったのであろう。
 無事に大学に合格してタイ語の勉強を始め、大学三年生の時に交換留学生として一年間バンコクの大学に通う機会を得た。タイの人の家に下宿させてもらい、通う大学にも日本人はほとんどいないという環境であったことから、事実上、一年間を「タイ人」として生活した。この時に私自身のタイ語の力も向上し、その後タイの研究を行なっていくための基盤が構築されたのだと思う。そして、昔から交通・鉄道に昔から関心があったので、「タイの交通・鉄道」をテーマに卒論を書くことに決め、さらに研究を進めるために修士課程に進学することになった。これが私のタイ研究の始まりであり、それから約四半世紀を経ても、相変わらず同じようなことをやっている。
 このように、私自身もタイに惹かれたことで過去三〇年間以上にわたってタイと関わってきたのであるが、その理由を客観的に説明することは難しい。タイのどこが好きかと言われれば、「暑い」、「おいしい」、「人なつっこい」、「安い」などの形容詞が思い浮かぶが、これらはあくまでも私の主観でしかない。とはいえ、私だけではなく、多くの人がこのような印象を抱くのではなかろうか。したがって、このような主観的な印象を客観的に説明することはタイをおおづかみに捉える上で重要だと思われる。以下、景観、観光資源、食事、宗教、社会の五つの点から、日本人がタイに惹かれる理由を客観的に考察してみよう。

【目次】

1 タイはどんな国か?
2 自然と地理
3 タイの歴史
4 タイに住む人々
5 政治と行政
6 経済と産業
7 国際関係
8 日タイ関係の変遷
9 タイの社会
10 対立の構図
文献案内・索引

【コラム・タイの15人】
ラームカムヘーン王、プーミポン王、スリヨータイ、ナレースワン王、チュラーロンコーン王、チン・ソーポンパーニット、タノーム・キッティカチョーン、プレーム・ティンスーラーノン、タックシン、ターニン・チアラワーノン、モンクット王、ワチラーウット王、プレーク・ピブーンソンクラーム、サリット・タナラット、スラナーリー

【執筆者はこんな人】

柿崎一郎(かきざき・いちろう)
横浜市立大学国際総合科学部教授
1971年生まれ。1999年東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了。横浜市立大学国際文化学部専任講師、同助教授、同国際総合科学部准教授を経て2015年より現職。博士(学術)。
第17回大平正芳記念賞(『タイ経済と鉄道1885~1935年』)、第2回鉄道史学会住田奨励賞(『鉄道と道路の政治経済学 タイの交通政策と商品流通 1935~1975年』)、第40回交通図書賞(『都市交通のポリティクス バンコク1886~2012年』)、第30回大同生命地域研究奨励賞(「タイを中心とする東南アジアの交通・鉄道に関する社会経済的実証研究」)を受賞。

主要著書
『タイ経済と鉄道 1885~1935年』(日本経済評論社、2000年)、『物語 タイの歴史』(中公新書、2007年)、『鉄道と道路の政治経済学 タイの交通政策と商品流通 1935~1975年』(京都大学学術出版会、2009年)、『東南アジアを学ぼう 「メコン圏」入門』(2011年、ちくまプリマ―新書)『都市交通のポリティクス バンコク1886~2012年』(京都大学学術出版会、2014年)など。





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