中国百科 増補改訂版

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 日本中国友好協会編

 2023年4月10日初版  A5判・並製・412ページ
 定価2500円+税
 ISBN978-4-8396-0333-5 C0030 Y2500E
 装丁 臼井新太郎
【関連書】 中国百科検定問題集

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未来のために中国を知る。
好きでも嫌いでも、中国は最も重要な隣国であることは間違いありません。
歴史・政治・経済から食文化・芸能・スポーツまで、中国のあらゆる側面をそれぞれの専門家がコンパクトに記述。この1冊で「中国」の全体像がつかめます。


【本書の構成】

第1部 地理
 1 地理
 2 民族・宗教
 3 世界遺産

第2部 政治経済
 4 政治と法
 5 経済と産業

第3部 歴史
 6 古代文明~唐代  
 7 宋代~清代
 8 近現代史

第4部 文化・芸術・風俗習慣
 9 言語
 10 文学
 11 映画
 12 食文化
 13 文化・スポーツ・教育・科学技術


*****


【執筆陣】

大西広(慶應大学・京都大名誉教授):地理・民族・宗教
高見澤磨(東京大学東洋文化研究所教授):政治
井出啓二(長崎大学名誉教授):経済
小川快之(国士舘大学教授):歴史
水羽信男(広島大学大学院教授):歴史
加藤三由紀(和光大学教授):文学
周建中(東京成徳大学教授):文化
石子順(映画・漫画研究家):映画
ほか多数


【目次】

はじめに 井上久士

未来のために中国を知る 大西広

推薦のことば――「中国百科」に期待する 谷野作太郎

地図:中国の行政区分(省および自治区と省都)
地図:中国の世界遺産

第1部 地理

1 地理
4つの直轄市(北京、上海、天津、重慶) 大西広
東北三省 大西広
華北地方(北京、天津を除く) 大西広
華中地方 大西広
華東地方(上海を除く) 大西広
華南地方 大西広
西北地方(新疆ウイグル自治区を除く) 大西広
新疆ウイグル自治区 大西広
西南地方(チベット自治区、重慶を除く) 大西広
チベット自治区 大西広
台湾 大西広
香港特別行政区 大西広
マカオ特別行政区 大西広
周辺諸国との係争地(戦後に解決したもの) 大西広
周辺諸国との係争地(未解決のもの) 大西広
世界のチャイナタウン 大西広
各省・自治区・特別市・特別行政区の略称一覧 丸山至

2 民族・宗教
民族区自治制度と民族識別 大西広
表:中国各少数民族の宗教信仰 大西広
漢族と回族 大西広
朝鮮族 大西広
タジク族とオロス族 大西広
ツングース系(語群)の諸民族 大西広
モンゴル系(語群)の諸民族 大西広
チュルク系(語群)の諸民族 大西広
チベット・ビルマ系(語群)の諸民族1 大西広
チベット・ビルマ系(語群)の諸民族2 大西広
ミャオ・ヤオ系(語群)の諸民族 大西広
カム・タイ系(語群)の諸民族 大西広
高山族とモン・クメール語群の諸民族 大西広
中国の宗教 大西広
コラム 中国動画サイト事情 梶川亜希

3 世界遺産
歴史と自然の魅力にあふれた中国の世界遺産 田中義教
世界文化遺産(歴代王朝関連A) 田中義教
世界文化遺産(歴代王朝関連B) 田中義教
世界文化遺産(国内外の交易路) 田中義教
世界文化遺産(宗教関連A:三大石窟) 田中義教
世界文化遺産(宗教関連B:各地) 田中義教
世界文化遺産(街並みと景観A)  田中義教
世界文化遺産(街並みと景観B:福建省、広東省) 田中義教
世界文化遺産(その他) 田中義教
世界複合遺産(4ヵ所) 田中義教
世界自然遺産A(雲南省、貴州省、江西省他) 田中義教
世界自然遺産B(四川省) 田中義教

第2部 政治経済

4 政治と法
憲法 高見澤磨
全国人民代表大会と地方各級人民代表大会 高見澤磨
附表:全国人民代表大会および全国人民代表大会の職権 高見澤磨
「公民」と「人民」 高見澤磨
「公民」の権利と人権 高見澤磨
国務院 高見澤磨
国家主席 高見澤磨
国家観察委員会 高見澤磨    
中央軍事委員会 高見澤磨
中国人民政治協商会議 高見澤磨
中国共産党 高見澤磨
自治 高見澤磨
「公司」(会社)と「企業」 高見澤磨
戸籍制度 高見澤磨
婚姻 高見澤磨
土地 高見澤磨
罪と罰 高見澤磨
司法 高見澤磨
裁判と法 高見澤磨

5 経済と産業
社会主義市場経済制度 井手啓二
経済成長 井手啓二
改革・開放政策 井手啓二
産業構造 井手啓二
農業 井手啓二
工業 井手啓二
商業・流通 井手啓二
対外経済関係――貿易と投資 井手啓二
企業 井手啓二
社会保障制度 井手啓二
米中貿易紛争から政治対立へ 大西広
一帯一路 山本恒人
習近平政権の経済戦略 大西広・山本恒人
地域間格差 徐 一睿
エネルギー事情 井手啓二

第3部 歴史

6 古代文明~唐代  
近代以前の中国史の特徴 太田幸男
黄河文明(中国文明) 久慈大介
長江文明 久慈大介
夏王朝 久慈大介
殷王朝 角道亮介
西周時代 角道亮介
春秋戦国時代 下田誠
諸子百家 佐々木研太
秦漢時代 下田誠
三国志 中村威也
古代中国の少数民族 中村威也
晋・南北朝時代 堀内淳一
隋唐時代 堀内淳一
魏晋南北朝隋唐時代の文化 堀内淳一
コラム 伝統的価値へのこだわり 王敏

7 宋代~清代
宋 小川快之
遼・金・西夏 小川快之
元 小川快之
明 小川快之
明末清初 小川快之
清 小川快之
清朝とモンゴル・新疆・チベット 小川快之
宋~明の文化 小川快之
伝統中国社会のあり方 小川快之
コラム 年画 王敏

8 近現代史
アヘン戦争 千葉正史
太平天国の乱 千葉正史
洋務運動 千葉正史
日清戦争 千葉正史
義和団事件 千葉正史
辛亥革命と孫文 千葉正史
中華民国 水羽信男
中国国民党と中国共産党 水羽信男
国民政府と蔣介石 水羽信男
国共の合作と対立 水羽信男
.国共内戦 水羽信男
抗日戦争 水羽信男
中華人民共和国と毛沢東 泉谷陽子
土地改革 泉谷陽子
朝鮮戦争 泉谷陽子
百花斉放・百花争鳴と「反右派」闘争 泉谷陽子
大躍進と人民公社 泉谷陽子
文化大革命 泉谷陽子
2度の天安門事件 井上久士
新中国の対外関係 泉谷陽子
日中国交正常化以降の日中関係 平井潤一
中台関係(両岸関係) 井上久士
コラム カード社会化とネット・ショッピング 王敏

第4部 文化・芸術・風俗習慣

9 言語
中国語とは(普通话)  中川正之
方言と標準語 中川正之
言語と文化 中川正之
地域性 モクタリ明子
中国語の音声 中川正之
中国語の特徴 中川正之
挨拶語・応答語 中川正之
若者言葉 モクタリ明子
日中同形語 中川正之
漢字 中川正之
コラム AI研究で突出する中国 大西広

10 文学
現代中国の作家たち 加藤三由紀
国歌の枠を超える文学 加藤三由紀
現代文学をめぐる「運動」と「制度」 宇野木洋
世界に広がる華語文学 渡邊晴夫
文学上の日中交流 渡邊晴夫
中国現代演劇 瀬戸宏
漢詩の起こりと進化 上野隆三
漢詩の全盛期 上野隆三
科挙と詩人たちと詞 平塚順良
辞賦と文言小説 上野隆三
古文復興と唐宋八大家 上野隆三
変文、元雑劇と明清の戯曲 平塚順良
『三国志演義』、『水滸伝』、『西遊記』、『紅楼夢』 平塚順良
コラム 豊子愷と漫画 石子順

11 映画
中国映画のはじまり 石子順
無声映画からトーキー映画へ 石子順
上海映画の黄金時代 石子順
戦時下の映画 石子順
戦後映画の復興と対立 石子順
新中国建国後の映画 石子順
文化大革命と映画界 石子順
中国映画の“改革開放” 石子順
中国映画の新しい波――第五世代の誕生 石子順
90年代の映画 石子順
「中華民族の復興」と中国映画 編集委員会
大陸と一体化していく香港映画 石子順
ねばり強い台湾映画 石子順
コラム 映画文化の変化 王敏

12食文化
中国の食文化 坂本佳奈
中華料理(北方) 坂本佳奈
中華料理(南方) 坂本佳奈
中華料理(東方) 坂本佳奈
中華料理(西方) 坂本佳奈
ウイグル料理 ロシェングリ・ウフル
少数民族の食文化 坂本佳奈
多彩に広がる食 坂本佳奈
中国茶の起源と分類 宝蓮華
中国酒 伊藤敬一
日本料理と西洋料理の浸食 王敏

13文化・スポーツ・風俗習慣
中国武術 渡辺襄
太極拳 丸山至
2度の北京オリンピック・パラリンピック 松木研介・廣澤裕介
中国アスリート列伝 廣澤裕介
囲碁・象棋 蘇耀国
中国漢方(中医学) イスクラ産業
剪紙 山川次郎
書道 木俣博
現代アート  牧陽一
現代中国の教育 吉村澄代
就学前教育・流動人口の子女教育と入試改革 吉村澄代
中国の古典音楽 加藤徹
京劇 加藤徹
吉祥シンボル 王敏
恋愛と結婚 王敏
プレゼント文化 王敏
中国の祝日 井上久士  
中国四大発明 周建中
中国の宇宙開発 周建中

中国歴史年表 
中国近現代史年表(改革開放まで) 
写真・図版出典 
あとがき 田中義教


【はじめに】

 昨年は日中国交正常化50周年でしたが、日中関係は多難な局面を迎えています。日本と中国の相互依存と緊張と対立を政府間の枠組だけで打開しようとするのは限界があります。国民同士が交流と相互理解を深めながら、人類運命共同体の一員として共に未来を切り開いていくことが不可欠です。それは時間がかかり、目に見える効果がすぐ現れるものではありませんが、着実な努力の積み重ねこそが、両国関係を国民に支えられた安定した軌道に戻す確かなちからになると思います。
 現在漢字を使っている国は、台湾を含めた中国以外では日本だけです。箸を使い米や麺類を食べ、九月には中秋の名月を愛(め)でるなど日本と中国は文化や日常生活で多くの共通性を持っています。
 同時に日本と中国では、似たように見えても、実は相違していることがたくさんあります。そこから誤解が生じる余地もあります。誤解や偏った認識を避けるためには、中国を自分の願望や断片的知識によってではなく、確かな事実に基づき総合的に理解することが大切です。
 日中友好協会は、中国理解促進のため2014年に中国百科検定を始めました。本書の初版はその検定のためのテキストとして出版されましたが、歴史・文化から政治・経済に至るまでの幅広い分野をそれぞれの専門家がコンパクトに執筆した内容が高い評価をいただきました。
 しかし、その後、中国が国内外において大きな変化を遂げたのはご存じのとおりです。そこで、世界で急速に存在感を増す現代中国の諸側面を解説する章を加え、『中国百科 増補改訂版』を出すことにいたしました。
 本書は中国百科検定のためだけでなく、中国に関心を持つ幅広い方々に中国の全体像を提供する内容となっています。執筆いただいた各分野の専門家に感謝申し上げますとともに、本書が正確な中国理解の一助になれば幸甚です。

井上久士(日本中国友好協会会長)   


【未来のために中国を知る】

■日本の常識・中国文化と中国史

 理系学部卒のある友人と一緒に中国の悲愁に行ったときのことです。鑑真で有名な寒山寺に同行した際に、漢詩の世界で有名な『楓橋夜泊』をすらすらとその友人が詠ってみせたのには驚きました。張継という唐代の詩人が詠った非常に有名な詩ですが、日本人の間に中国文化が染み渡っていることを実感したと同時に、「これくらいのことは知ってるよね」と言われたような気がしたからです。正直、私はとてもそのような暗誦はできません。
 しかし、ここには日本において「中国通」たるにはどの程度の知識が必要かが示されているようにも思われ、日本のスタンダードの高さを思い知らされます。私はアメリカ・コロンビア大学の東アジア研究所でアメリカの中国研究者と約1年間交流をしましたが、そこでは「三国志」も知らずに中国経済を論じている者がいて驚いたことがありました。確かに「三国志」を知らずとも現代の中国経済を議論できるかも知れません。しかし、アメリカで対中政策を策定しようとしている人々の常識と我々日本人の常識の差を知っておくのも重要かも知れません。と言いましょうか、私たち日本人は中国を批判するにしても褒めるにしても、それくらいは前提にしたいものです。

■誤解から生まれる両国の摩擦
 実際、関係が良かろうが悪かろうがここから引っ越しのできない日本が隣の大国のことを知っておくのはやはり必要なことで、これには世にある様々な誤解が必要以上に中国の印象を悪くしているということもあります。
 たとえば、時に「中国は領土問題で一歩も引かない悪い国」といったことがマスコミで言われていますが、戦後にロシアやインド、ベトナムやパキスタン、北朝鮮との間でいくつかの領土問題を解決してきたことはあまり知られていません。また、中国の政治制度は「人民民主専政(独裁)」であると中国自身が述べていますが、それでも少数政党が8つあること、人民代表や党大会の選挙では必ず落選者が出る「差額選挙」という厳しい振り落としをやっていることなどもあまり知られていません。本書ではもちろん、これらの誤解を解こうとしています。

■ビジネスをする上でも知識は不可欠
 それからもうひとつ、本書をビジネス界の人々にも強くお勧めしたい理由には、「中国の中国地図」と「日本の中国地図」に違いに気づいておられない企業家がいる、ということがあります。尖閣列島や南シナ海といった点にしかならない島嶼部は大きな地図で目立ちませんが、台湾はもちろんのこと、実はインドとの係争地は面積にして非常に大きく、よく知る中国人には「中国の中国地図」と「日本の中国地図」の違いが一目でわかるからです。
 このことが気になってしまうのは、対中進出企業がこの違いに気づかず、意識もしないうちに会社のパンフレットなどで中国政府の主張に反対を表明してしまっていることがよくあるからです。そして、実際、私は以前、上海に拠点を置いていたある日本企業にこの問題でアドバイスをしたこともあります。その会社の幹部の方々はその話を聞いて肝を冷やされたかも知れません。

■本書は検定試験のテキストにもなっています
 以上のような趣旨から日中友好協会では多くの学者・専門家の協力を得て本書を発行しましたが、この知識をより広げようと、2014年以降、「中国百科検定」という検定試験も始めています。初級に始まり、3級、2級、1級と進んだ上で、地理、政治経済、歴史、文化に分かれた特級試験を準備した検定試験で、年に2度開催しています。読者の皆さんが学んだ知識を確かめるため、あるいは会社などに証明するために試していただけることを心より期待しております。健闘を祈ります。 [編集責任者 大西広]