本著の「インタビュー」には、シリコンバレーの起業家、ハリウッドの役者、弁護士、性同一性障害を抱える学者、プロフットボールチームのチアリーダーなど、カリフォルニアならではのユニークな日本人が登場する。当面、われわれが目指すであろう現地採用の会社員にも話を聞いた。成功している人ばかりではなく、これから当地を活躍の舞台とする人や夢を目指しながらもいまは小休止している人も取り上げている。総勢21人、彼らは以前取材したフィリピンに住む日本人とはひと味もふた味も違った。
 高度経済成長後に渡米した日本人が、戦前の日系移民と明らかに異なるのは、渡米目的である。戦前の移民は家族を養うため、生活のために一攫千金を目指し太平洋を渡った。しかし、日本が経済大国となったいま、海外へ出ることは逆に経済的なリスクを高めてしまうことをも意味する。それでも渡米した彼らは、結果的に日本に留まっている以上の安定を手にした者も少なくないが、精神的な自己実現や知識の探求など金には代えられない「心の満足感」を追い求めたのである。
 インタビューでは、彼らの生き様はもちろんカリフォルニアで働くためのノウハウや州が抱える問題点など、同州をあらゆる角度から考察し原稿を書いた。逆に言えば、カリフォルニアが一体どのような土地なのかを的確に語ってくれる取材対象者を厳選した。本著の後半には「インフォメーション」として、働くための具体的な情報を掲載しているが、インタビューはそのインフォメーションを補完する役割も果たしていると考えてほしい。
 インフォメーションは、「働く」ことに重点を置いたため生活のための情報としては詳細を端折った部分もある。しかし、必要だと思われることについてはどのノウハウ本よりも詳しく説明した。
 カリフォルニアで働くための情報はあふれている。情報の多さにうんざりさせられることもある。私自身、カリフォルニアで働く前には色々な本を買い込みインターネットを使って多くの情報を収集した。しかし、最も大切なのは優れた情報をどれだけ集めるかではなく、「カリフォルニアで働く」というモチベーションを、思い立ったその日から実行に移すまで維持し続けることである。そのためにはマニュアルを読み漁るのも良いが、先人たちの苦労を知りサクセスストーリーを聞いて、臨場感を味わいながら自分を奮い立たせることである。モチベーションが高ければ、あふれる情報をかき集め取捨選択することへの苦労などいとわなくなる。
 海外で働きたいと考えたことがある人は決して少なくない。国際化が進展し雇用形態の多様化が加速している現代、海外で働くことを視野に入れる人たちが今後も増えるのは間違いない。あとは自分次第である。あなたの勇気ある決断を、われわれは心から待っている。………