◇審査結果・受賞者紹介
【プロの部】
審査員:伊藤俊治、江成常夫、大石芳野、坂田栄一郎 |
さがみはら写真賞:ノミネート作家18名 さがみはら写真アジア賞:ノミネート作家 5名 さがみはら写真新人奨励賞:ノミネート作家27名 |
●さがみはら写真賞 後藤 勝(39歳) タイ 作品名「絶望のなかのほほえみ」 1966年生まれ。92年から中南米で人権問題をテーマに活動開始。以降、中南米、東南アジアの紛争、人権、HIV問題をテーマに長期のドキュメンタリープロジェクトに取り組む。2005年現在、バンコクを拠点に活動を続ける。 【著書】 「僕の戦場日記」(めこん)1999年。 「絶望のなかのほほえみ:カンボジアのエイズ病棟から」(めこん)2005年。 【共著】 「ジャーナリズムの条件1」『職業としてのジャーナリスト』(岩波書店)2005年。 【受賞】 2004年第5回上野彦馬賞。 2004年”The
River of Life” WHO世界保健機関国際写真コンペティション。 2002年”The
Photo fund 2002” Fifty Crows International Fund for Documentary Photography。 |
●さがみはら写真アジア賞 DOAN
CONG TINH(62歳) ベトナム 作品名「重要な瞬間/ベトナム戦争の写真資料」 1943年生まれ。1962年、19歳で軍隊に参加し砲術を学ぶ。1965年、Hai Phong沿岸の要塞指揮官として従事。1969年、人民軍新聞の写真家(ファイター・フォトグラファー)として従軍。1970年から1972年にかけて北ベトナム地方の激戦地を撮影。撮影された作品は、国内及び海外の新聞、雑誌にて発表。これらの作品で数々の国際写真賞を受賞。 【受賞】 OIJ賞グランプリ(作品名:Assault
on Dau Mau base) A.C.C.U賞グランプリ(作品名:On
the way to war) ベトナムジャーナリスト連盟賞(作品名:On the anonymous hill) |
●さがみはら写真新人奨励賞 中里 和人(49歳) 千葉県 作品名「路地」 1956年三重県生まれ。84年よりフリーランスカメラマン。 【写真展】 95年「夢ノ手ザワリ」新宿ニコンサロン、00年「小屋 無心で奔放な建築」京橋INAXギャラリー、 04年「Rising
Darkness」高円寺イル・テンポ他写真展多数、05年「N町」茅場町・うちだ他写真展多数 【写真集・著書】 91年写真集「湾岸原野」六興出版、00年写真集「小屋の肖像」メディアファクトリー、02年写真集「キリコの街」ワイズ出版、03年「逢魔が時」ピエブックス 共著、04年「長屋迷路」ピエブックス
共著、写真集「路地」清流出版、05年「夜旅」河出書房新社 文・中野純 【受賞】 第15回写真の会賞 柳本 史歩(29歳) 東京都 作品名「栃尾に向かって−アイル・ビー・ゼア」 1976年東京生まれ。1999年東京造形大学卒業 以後フリー。 【写真展】 「ある人々の季節」「海辺の町」「海山の間」「遠い海・六月のさくら」他 【出版物】 「SEASON」「VOICES」「VIEWS」「THERE」(写真展図録) |
●審査員コメント さがみはら写真賞 後藤勝 「絶望のなかのほほえみ」 後藤勝氏は、1997年に内戦が再燃したカンボジアの前線へ向かい、戦う少年兵や家を追われた難民の姿を撮り続けた。内戦終了後も彼は途上国の人身売買やエイズなどにテーマを広げ、その果てにタイ国境に近いバッタンバン州リファラル病院感染病棟へたどりつく。氏はその病棟で次々と力尽きて死んでゆく人々を目の当たりにし、記録しても無駄かもしれないと思いながら長期に渡ってこの“果て”の光景を撮り続けた。言葉にできないことを抱え込んでしまった人々から放射される多くの重要なものを何とか真摯に受けとめようとする写真家の業のようなものが、この稀有な写真集には精密に写しとめられている。 さがみはら写真アジア賞 ドアン・コン・ティン 「重要な瞬間/ベトナム戦争の写真資料」 ドアン・コン・ティン氏の「重要な瞬間/ベトナム戦争の写真資料」は、氏が25才の時に北ベトナム人民軍新聞の写真家として従軍した1968年からサイゴン陥落の1975年まで撮影した膨大な写真群のなかから精選された写真集である。ティン氏は、いわゆる“ファイター・フォトグラファー(戦う写真家)”として、特に戦争末期における女子兵士の活動や一般人の団結力など、従来のベトナム戦争の写真からは抜け落ちていたイメージを丹念に撮り続けている。この写真集は氏の初めての写真集であり、彼の仕事の総決算ともいえるもので、戦争の現場を凝視し続けてきた持続する眼差しの成果は圧倒的な迫力をもって迫ってくる。 さがみはら写真新人奨励賞 中里和人 「路地」 中里和人氏の「路地」は、十年がかりで日本各地を巡り歩きながら路地の光景を撮り続け、都市化や近代化から置き去りにされながら生々しく息づく界隈を正確に撮りおさえている。氏は1956年生まれ、これまで町工場跡や洞穴などでユニークな写真展を精力的におこない、「小屋の肖像」や「逢魔が時」、「キリコの街」や「湾岸原野」など独自の視点で日本の原風景をとらえ続けてきた。「路地」はその氏のライフ・ワークともいうべき労作であり、日本という“路地の王国”に広がる不思議なネットワークを浮びあがらせている。 さがみはら写真新人奨励賞 柳本史歩 「栃尾に向かって−アイル・ビー・ゼア」 柳本史歩氏の「栃尾に向かって−アイル・ビー・ゼア」は、新潟県長岡から内陸へ入った栃尾を訪ね、かつて紡績業で栄えたというこの町の、時間の流れが止まってしまったような繊細な気配や肌理をとりおさえた写真集である。氏は1976年生まれ、他にも「海辺の町」や「眩しい町」などのシリーズを発表しているが、その土地に生きる人々の生活のリズム、町の記憶の痕跡や土地の息づかいのようなものまですくいとってゆく手法は独特で、まるで未来からふんわりとあたたかな眼差しが降りおりてきたような不思議なイメージを生みだしている。 審査員 東京芸術大学教授/美術史家 伊藤俊治 |
【アマチュアの部】
審査員:梶原男、齋藤康一、竹内敏信 |
応募作品:2,645点、応募者数:714名 |
●さがみはらアマチュア写真グランプリ 金賞:美藤 明(61歳) 香川県 作品名「クラスメイト」 銀賞:赤司 修子(72歳) 東京都 作品名「おもしろいよ!!」 旭山 強(50歳) 神奈川県 作品名「ナイスキャッチ」 銅賞:飯田 能之(43歳) 神奈川県 作品名「超接近」 大槻 義弘(64歳) 神奈川県 作品名「竜雲」 渡辺 邦昭(64歳) 東京都 作品名「お手伝い」 入選:50名 |
●審査員コメント 金賞となった「クラスメイト」の作者美藤明さんは香川県在住の方ですが、高校卒業式の終了後に校庭で写したのでしょう。画面いっぱいに入れたそれぞれの表情に対してのシャッターチャンスが、別れを惜しむ中にも希望に満ちた気持の昂ぶりが感じられます。写真の撮りくちとすれば、テクニック無用のストレートさに或る種の好感が持てますし気迫を感じます。銀賞の「おもしろいよ!!」、赤司修子さんの作品は、逆様に置かれた競技用自転車を悪戯する少年を、バックの建物に対してカメラ位置が真正面からなので縦横の線がすっきりとし、しかも少年の後は丁度グレーの壁なので人物の引き立ち方が、表情やペダルを廻す手の動きと共に強く表現されています。眺めていると楽しくなってしまいます。旭山強さんの「ナイスキャッチ」は、以前にもシギを撮った作品で入賞していましたが、バックの大きな葉の中にまるで置かれた様にシギがスッポリと嵌り込んでいますし、カメラ位置を低くしているので主役の目立ち方がよく、嘴に咥えた魚の跳ねている様子もバックのグリーンに対して飛んだ水滴が目立ち、全体のトーン、フレーミングの良さ、瞬間をとらえたシャッターチャンスにも感心させられました。飯田能之さんの「超接近」は、上からの光がマンタをラインライト風に見せ、その胴の部分に張り付いた小判鮫を手前からの光に依って影を生かしながら形良く見せています。フレーミングも見事ですし、雄大な海の美しさをいかんなく発揮しています。大槻義弘さんの「竜雲」は、富士山の上部と空とのバランスが良く、茜色の光を浴びた雲の美しさと、富士山の美しさ、雄大さを一枚の画面の中に拡がりを見せながら素晴らしい納め方をしていると思いました。渡辺邦昭さんの「お手伝い」は、お互いの表情も良く楽しさがありますが、カメラ位置をやや右として路面部分を少なくした方が画面上での強さが出たでしょう。お手伝いの様子や、全体の雰囲気に好感が持てると思いました。 審査員 写真家/日本写真家協会常務理事/日本写真協会理事 齋藤康一 |