【書評再録】
◎『ラオス農山村地域研究』53(8)、122ページ (「地理」)  


ラオス農山村地域研究

【書評】
 2007年に日本地理学会にネイチャー・アンド・ソサェティ研究グループが設置された。このメンバーには東南アジアをフィールドとする人が多く、評者はその縁で本書を知った。地名は知っていても、社会経済状況や人びとの暮らしぶりなど、ステレオタイプ的にとらえかねない地域が、実際は多様な顔をもっている。そんな当然のことを複数の報告から教えられる。本書は、地理学をはじめ9つの学問分野にまたがる15名の研究者が、ラオスの農山村に焦点をあてて調査の成果を論じたもので、ラオス農山村について多面的かつ広範囲に論じた初めての専門書である。
 内容は、社会、水田、森林、牛業の4部構成で、第1部に先立ち「ラオスをとらえる視点」が、また各部の末尾にコラム的な小論がおかれている。「ラオスをとらえる視点」は、多くの人がラオスに馴染みがないことを考えると、わかりやすく簡潔にポイントをまとめていて読む価値が高い。フィールドの写真も多数掲載されており、イメージを膨らませるのに役立つ。写真が多いことは本書の優れたところで、専門書といいながらも、馴染みのない人にわかりやすい親切なつくりになっている。
 以降のタイトルは、消えゆく水牛、民族間関係と民族アイデンティティ、水田を拓く人々、水田の多面的機能、土地森林分配事業をめぐる問題、植林事業による森の変容、非木材林産物と焼畑、焼畑とともに幕らす、開発援助と中国経済のはざまで、商品作物の導人と農山村の変容となっており、それぞれに興味深い論が展開されている。
 ラオスは、社会主義体制下で中央統制が厳しそうでありながら、自給農業を基盤とした分散型社会として今日にいたってきたこと、マクロにみれば明らかに貧しい国であるが、一方で、自然とうまく折り合いをつけた豊かな側面を残していること(そしてそれが環境の世紀とされる現代において見直される価値をもつこと)、しかし、そのような社会が外部世界からの働きかけ(政府による各種事業、NGOによる開発援助、越境してくる中国経済など)により、住民がその善し悪しを判断できないほど、急速に変化していることなど、実に興味深い指摘がなされている。
(淺野敏久・広島大学)






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