【書評再録】
◎『瀾滄江怒江伝』2008年8月号掲載 (朝日新聞)  


瀾滄江怒江伝

 

大河の流れとともに古代から現代へ

 中国大陸は西高東低の地形であり、大河は西から東へ滔々と流れるものと思われてきた。しかし南北に流れる大河もある。青海省、チベット自治区に源流をもち雲南省を縦断し、やがてミャンマーに入りサルウィン川となる怒江、メコン川となる瀾滄江はその代表格である。二つの大河は雲南省に入るころからほぼ並行して南下し、その間に多くの少数民族を包み込み、豊かな自然と文化、歴史を育んできた。著者はこの二つの大河に魅せられ、20年以上にわたりその流域の山河や村人たちに触れ、自然と人間を見つめ続けてきた。
 本書は源流の古代の話から始まり、川の流れに沿いながら話題も現代に近づけていく。源流で育まれたチベット族の叙事詩「ケサル王伝《はホメロスの「イリアス《、インドの「マハーバーラタ《をしのぐ壮大な叙事詩と絶賛する。雲南の大渓谷では、1922年に麗江から瀾滄江、怒江流域に入り、その後27年間雲南で過ごし世界的な人類学者・椊物学者となったジョセフ・ロックの旅もリアルに再現している。渓谷を過ぎ大地へ悠然と流れる中流域では、蜀をはじめ漢族との接触の歴史が叙述される。お上の力によらず人やキャラバンが一歩ずつ開拓し作った「古道《の話も興味深い。南方のシルクロードといわれ、インドに通ずる「蜀身毒道《も古道の一つである。日本との歴史も登場。抗日戦争の時代の「援蔣ルート《に当たる当地は直接日本軍の攻撃と侵略にさらされ、数々の悲劇があった。
 著者は雲南の民族文化研究者であると同時に環境NGOに携わる社会派知識人でもある。読み始めでは、雲南省の環境社会問題が中心テーマかと思っていたが、それは「極めて控えめな表現のメッセージ《(訳者)にとどまっていた。あまりにも長い時の流れ、広大な自然と文化、そこに息づく人々の歴史が描かれているが、「中原中心《「中華と野蛮の区別《という伝統的見方でなく、自由な独自の歴史と文化を持ち、最後には「中華文化の海に融合する《文化を伝えようとする著者の意図は十分に伝わってきた。
 本書には、日本の現場における「英語活動《への取り組み、その課題と成果、また、国際教育・異文化理解教育としての英語教育のあり方、非母語話者をALTとして積極的に活用することの勧め、英語優越主義・多言語主義を意識した外国語教育改革の方向性等までが盛り込まれており、これらは小学校の英語教育を考える際に参考となる有益な良書であり、現職教員および教員養成課程の学生に一読してほしい、お勧めの1冊である。
早稲田大学教授 天児 慧





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