多言語社会インドネシア 単一言語コミュニケーションを唯一の在り方と信じて疑わない人にこそ、世界的に見ればむしろ優勢な多言語使用という言語事実に目を向けてほしい。九八年のスハルト大統領辞任以降の言語状況の変化を扱った本書は、そのために開かれた一つの扉だと言える。 AA研主催共同研究プロジェクトの成果としての九編の収録論文は、言語政策、地方語振興、コードミクシング、言語とアイデンティティ、中国語などの外来言語使用における特定の現象を追及しており、入門的・概括的知識を求める読者に読み易いものではない。しかし、議論の背景となる法制や国家機構を解説したコラムを付け、論文間の議論の相互関係を可能な限り明示する編集方針には、プロジェクトに参加し得なかった読者を研究会の議論へと誘うものがある。 何が母語以外の言語を自身の(または共通の)言語として取捨選択させるのか、その動機に関わる興味深い事実に溢れた書である。 【吉田一彦】