【書評再録】

ベトナムの皇帝陶磁
関千里著

◎2009年8月 No.493「小さな蕾」 掲載


約十年前、筆者は仕入先のタイの美術店で見たこともない美しい五彩(色絵)の壺と出会った。これを契機に次々と幻の古陶磁が出現。やがてそれらはベトナムのある地域から出土したものと解った。卓越した技量と芸術的完成度の高さに魅了された筆者は、これら知られざるベトナム古陶磁の調査、研究に没頭。その結果、これらの古陶磁は14世紀後半、ベトナムの陳(チャン)王朝時代のものという結論が導かれた。これら五彩(色絵)と青花(染付)の陶磁器は、ベトナム陶磁史の空白期を埋める存在であることが判明。これらの陶磁器は中国の陶磁器に勝るとも劣らないもので、まさにベトナム宮廷文化の賜物として、「皇帝陶磁」と呼ぶにふさわしいものであった。
幻の古陶磁と出会った経緯から真贋に関する様々な考察を経た上で、名品の発見に至った行程を、回想を交えながら紹介。さらに中国古陶磁との比較検討や考察を述べた研究者の文章も紹介され、広くベトナム古陶磁への研究と考察がつぶさに語られている。また古美術商として東奔西走する姿から、研究書にはない筆致というか、骨董に携わる人間の心理や考察が興味深い。新発見の「皇帝陶磁」とベトナム陶磁史が豊富なカラー図版とともに紹介され、ベトナム古陶磁への再認識が促される。機会があれば実物を是非とも拝見したいものだ。


◎2009年4月1日 No.391号「目の眼」 掲載


安南焼は、中国の影響を受けて15世紀中ごろから作られ始めたというのが定説になっている。ところが1999年以降ベトナム北部のある地域から大規模に出土した陶磁器群は、従来にない意匠や魅力を持っていた。長年南アジアの古美術を扱ってきた著者がその一群を追い求め、ついに14世紀の作品であることを突き止めるまでの丹念な記録と研究の書。


◎2009年2月26日 No.46「つくる陶磁郎」掲載


1999年にベトナム北部で大量の古陶磁が発掘され、市場へもたらされた。そのやきものは、これまで「安南」として親しまれてきた素朴な味わいのものとは趣きの異なる、精緻で華麗なものだった。40年にわたり東洋陶磁を中心に扱う美術商として働いてきた著者は、このやきものが、これまでベトナム陶磁史のなかで空白とされてきた陳朝(1225〜1440年)の官窯製品であるという仮説のもと、やきものの化学的な年代調査までを含め、自費で研究を行ってきた。本書はその集大成である。発掘されたやきものはもちろん、国内外の博物館蔵の図版も豊富で、著者の経験と情熱を傾け著者の経験と情熱を傾け、世界の陶磁史へ新たな一石を投じた一冊となっている。


◎季刊 2008年冬 第156号 「銀花」 掲載

定説を覆す美術商の挑戦


1999年、東南アジアの古美術を中心に扱う著者のもとに、バンコクの古美術商から一通の封筒が届いた。中身はいつものように品物を紹介する写真だったが、写っていたのは魚が描かれ赤みが濃厚な、見たことがないタイプの大壺。現地に飛んで買い付けたこの大輪のような「五彩魚藻文大壺」はさっそく自店の正面に飾られた。次々に届く写真。ベトナムで発掘された大量の古陶磁器がバンコクへ流れはじめていたのだ。
 著者は資金のありったけを投入して買付けに全力をあげる。ベトナム陶磁器の出土のピークは約五年で終わったが、著者の文献渉猟、現地調査から科学分析による年代測定まで実証研究は十年に及んだ。"定説では、ベトナムの五彩の色絵や青花の染付けによる陶磁器は中国の影響下での十五世紀半ば以降の制作とされる。しかしそれらは中国の単なる亜流ではなく、年代的にも十四世紀後半までさかのぼれる”との確信を著者は得る。ベテラン美術商が勝負をかけて取り組んだ蒐集、調査、研究のドキュメンタリーがびっしり。六百五十枚を超えるカラー写真がベトナム古陶磁の華やかな魅力をあますことなく伝えている。

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