【書評再録】

アジアで成功する企業家の知恵
増田 辰弘・馬場 隆 著

◎2011年7月25日付 日刊工業新聞  掲載 『著者登場 増田辰弘氏』


――取材されたアジアの日系企業数は1500社以上に上るそうですね。
「マスコミにほとんど登場してこなかった日系中小企業のアジア進出の工夫と知恵を、現地取材をもとに本書で紹介した。成熟した日本では、ハングリー精神は出てこない。幸い、日本企業のアジア展開は、従来の“ジャルパック型”の安全だけど高めな進出から、“LCC(ローコストキャリア)型”のいろいろ工夫をして低コストで進出する時代となった」

――成功している企業の共通点は何ですか。
「チャレンジ精神と低コスト化の工夫だ。大企業や中堅企業ならすでに進出しているグループ会社を紹介してもらったり、コンサルタントを利用するという手がある。だが、中小企業は資金の事情もあり、こうした方法をとることは簡単でない」

――代表的な事例は。
「外国人研修生などを活用し、小資金で中国やタイへ進出を果たしたのが、栃木県佐野市でエアコン関係の金属フィルター製造などを手がけるバンテックだ。タイ進出ではバンコク近郊のアマタナコーン工業団地に隣接する古い民間工場アパートに入居した。バンテックにとってアマタナコーン工業団地は高額だったからだ。これで進出経費を抑えつつ、同団地に入居している日系企業からの注文に応えることができる上、タイ投資委員会(BOI)認可の投資ではないため、タイの内需も狙えるという二重のメリットを得ている」

――国内の空洞化の問題をどう見ていますか。
「中国をはじめアジアの主要都市はビジネスインフラが整い、日本国内を上回る市場ができつつある。国内だけでビジネスをするよりもずっと効率がいい。アジアに出ると稼げるという側面とともに、主要マーケットではどんなビジネスが起きているかという“ビジネスリズム”がつかめるという側面がある。多くのひきこもり型企業は、このビジネスリズムの変化が見えないまま、昨日と同じ経営を行っている。空洞化とは、酷なようだが、昨日の経営を行っている結果とも言える」
(編集委員・斎藤真由美)

プロフィル
  72年(昭47法政大法卒。)神奈川県庁職員を経て、01年産業能率大学経営学部教授、05年法政大大学院客員教授。経営者が新しいアジアビジネスを報告する「アジアビジネス探索セミナー」を主宰。島根県出身、64歳。

 

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