太平洋を舞台として人や物、ビジネスや文化の行き来が活発に行われる時代、 アジア・オセアニアでのコミュニケーションツールは、世界の共通語である英語だ。この地域で使われる英語は社会言語学的に三種類に分けられる。英語を第二言語として話すESL (English as a Second Language:フィリピン、シンガポール、インド等)、日常的には使われないEFL(English as a Foreign Language:タイ、ベトナム、韓国等)、そして母語とされるENL(English as a Native Language :オーストラリア、ニュージーランド) である。本書ではそれぞれに当てはまる国々での英語教育事情や特徴を紹介している。
幾つか例を挙げてみると、 ESLに分類されるシンガポールは多民族国家で、公用語が四つあるが第一教育言語が英語である。現地で使われるシングリッシュは、標準英語と発音や文法がかなり異なるが、コミュニケーションの手段として多いに使われている。約50年後には人口数で世界一になると言われるインドでは母語も 100以上あるが公用語はヒンディー語と英語であり、英語のレベルは高い。その教育法は国内外で評価が高く教師陣もインド人がほとんどで、彼等は海外でも活躍している。 EFLの国として挙げられているタイは、一度も植民地を経験していない国だが、英語教育の歴史は古く1820年代より行われていた。近年の経済発展により拍車がかかり、小学校の英語必須化や専門学校が多く出現している。フィジーでも、小学校4年生から教育言語に英語が用いられる。しかし生活言語は方言を含む現地の言葉であり英語話者は少ない。ある学校教員は、学生の話す英語もフィジー語も崩れてきていると嘆く。執筆者は、日本における小学校での英語導入にも言及し、同じ状況になるのではと懸念を抱いている。
編者はあとがきで、単なる教養英語では実際には身につかないもので、生活や仕事で必要とされるからこそ、身につくものだと述べている。各国の社会的・歴史的背景も章の始めに記されており、英語事情を分かりやすく知る事ができると同時に、それぞれの文化にも触れることのできる一冊である。