【書評再録】

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◎『英語教育』(大修館書店)2007年4月号掲載

アジア・オセアニアの英語
河原俊昭・川畑松晴編

アジア・太平洋は英語でつながる

   これまでもアジアにおける英語教育の研究書やアジア英語の辞典は刊行されてきた。この本は、その発展形であり、アジア英語研究をリードする方々による実証的な調査によって著された。編著者ほか7名によって、フィリピン、シンガポール、マレーシア、インド、韓国、香港、タイ、ベトナム、フィジー、オーストラリアおよびニュージーランド(アオテアロア)における英語に関する専門的な知見にくわえて、その地域の歴史、文化、風物も書き込まれ、空港に降りたってからの街歩きが目に浮かぶかのような、魅力ある読み物になっている。アジア英語をより一般的なものにしたいという意欲にあふれ、事実、アジア英語への関心のひろがりの反映もある。担当者のその地域への熱い想いが伝わってくる。
 この本の特色の1つは、アジア・オセアニアという地域を ESL、EFL、ENL(第二言語、外国語、母語)の3つにまとめて構成したところにある。むろんアジア・太平洋という広大な地域における英語の状況をまとめるのは容易なことではない。読者の関心も、英語のバリエーションから、言語政策また経済社会問題まで多岐にわたるであろう。それぞれの地域のことについて評することはできないが、英語がますます重要になり、マレー化政策をすすめたマレーシアでさえ、理数科を英語で教えるようになってきているとのこと、また他の国においても英語による「ディバイド」がすすむ懸念があることが読みとれる。韓国の英語熱は、小学校への英語教育の導入の論議もあり、注目を集めているが、英語が苦手とされるタイでも英語ブームだという(もっとも1921年から小学校で英語が教えられていたが、1977年には廃止されていたという経過をはじめて知ったが)。この本は日本での英語教育政策や今後を考えるうえでの貴重な情報源である。
 英語と経済社会的な問題との関わりの指摘は重要である。インドでの婚姻やフィリピンからの移住労働者に関して、英語にアクセスできないマイノリティの人びとへの人権抑圧などの問題も避けては通れない。
 他方、英語は人びとを結びつける役割もある。ユネスコアジア太平洋国際理解教育センター(ソウル)ではフェローをイランやフィジーなどからも招き、各地の民話を収集し、英語での共有をすすめている。ユネスコでは津波被害の経験から、防災を重視し、防災教育の教材開発に日本政府も援助をしている。他方、南と南、発展途上国どうしが共同することにおいても英語でのコミュニケーションは欠かせない。アジア・太平洋における英語のもつポジティブな役割にも注目をしていきたい。

(東海学園大学助教授 淺川和也)


◎ALC NetAcademy 通信[32]( 2007.1.24) 掲載

アジア・オセアニアの英語
河原俊昭・川畑松晴編

 太平洋を舞台として人や物、ビジネスや文化の行き来が活発に行われる時代、 アジア・オセアニアでのコミュニケーションツールは、世界の共通語である英語だ。この地域で使われる英語は社会言語学的に三種類に分けられる。英語を第二言語として話すESL (English as a Second Language:フィリピン、シンガポール、インド等)、日常的には使われないEFL(English as a Foreign Language:タイ、ベトナム、韓国等)、そして母語とされるENL(English as a Native Language :オーストラリア、ニュージーランド) である。本書ではそれぞれに当てはまる国々での英語教育事情や特徴を紹介している。
 幾つか例を挙げてみると、 ESLに分類されるシンガポールは多民族国家で、公用語が四つあるが第一教育言語が英語である。現地で使われるシングリッシュは、標準英語と発音や文法がかなり異なるが、コミュニケーションの手段として多いに使われている。約50年後には人口数で世界一になると言われるインドでは母語も 100以上あるが公用語はヒンディー語と英語であり、英語のレベルは高い。その教育法は国内外で評価が高く教師陣もインド人がほとんどで、彼等は海外でも活躍している。 EFLの国として挙げられているタイは、一度も植民地を経験していない国だが、英語教育の歴史は古く1820年代より行われていた。近年の経済発展により拍車がかかり、小学校の英語必須化や専門学校が多く出現している。フィジーでも、小学校4年生から教育言語に英語が用いられる。しかし生活言語は方言を含む現地の言葉であり英語話者は少ない。ある学校教員は、学生の話す英語もフィジー語も崩れてきていると嘆く。執筆者は、日本における小学校での英語導入にも言及し、同じ状況になるのではと懸念を抱いている。
 編者はあとがきで、単なる教養英語では実際には身につかないもので、生活や仕事で必要とされるからこそ、身につくものだと述べている。各国の社会的・歴史的背景も章の始めに記されており、英語事情を分かりやすく知る事ができると同時に、それぞれの文化にも触れることのできる一冊である。

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