【書評再録】
◎JTECS友の会NEWS 66号 BOOK REVIEW掲載

絶望のなかのほほえみ 〜カンボジアのエイズ病棟から
後藤勝著

 カンボジア・バッタンバンのエイズ病棟を3年に渡って取材、患者や関係者の姿を追ったフォトドキュメンタリー。
 殺伐とした病棟の中で、死を目前にそれぞれの思いを向けられたレンズに託した患者たち。フィルムにはそのやるせなさ、怒り、寂しさ、悲しみ・・全てが収められ、読者に大きな衝撃を与える。医師は言う。
 「今、エイズという第二の内戦がカンボジアを襲っているのです。患者たちを助けたい。何かあなたにできることはありませんか」


◎J朝日新聞2005年6月15日夕刊 日本人脈記 ベトナムの戦場からB掲載

絶望のなかのほほえみ 〜カンボジアのエイズ病棟から
後藤勝著

 岡村(昭彦)にきっかけをもらい、長倉(洋海)に鍛えられた写真家がいる。4月に「絶望のなかのほほえみ――カンボジアのエイズ病棟から」を出した後藤勝(38)。バンコクを拠点に社会問題を追う。
 工業高校を1年で中退し、希望を失っていた17歳のとき、古本屋で岡村の「南ヴェトナム戦争従軍記」(岩波新書)に出合う。暗記するほど読み返した。アルバイトでカメラを買い、中米へ。数年後、エルサルバドルで撮った連作写真を日本の雑誌に売り込んだ。自信はあったが、編集者の手紙が届く。「長倉という人がそこで良い仕事をしている。もっと人間に迫り、心を揺さぶる写真を」。長倉は後藤の目標になった。
 97年にカンボジアに入った直後、内戦が再燃し前線へ。「なぜ来た?」。兵士に聞かれ、「怖いけど来てしまった。戦闘の写真が撮りたい」。負傷兵には「おれの写真をいくらで売るんだ」と怒鳴られた。この時の写真ルポ「カンボジア・僕の戦場日記」(めこん)で後藤は世に出る。面識のなかった長倉が書評を寄せた。
「本書は極めて私的な記録といえるかもしれない。が、確実に『人の姿を伝え、今の時代を浮かび上がらせる』
 後藤はその後、途上国のエイズや人身売買などにテーマを広げた。戦争だけでなく、世界には不条理な死があまりに多い。「レンズを向けた人から託されるものの多さに、おののく日々です」





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