T はじめに
本書は、総合地球環境学研究所の「アジア・熱帯モンスーン地域における地域生態史の総合的研究――1945〜2005」(平成15〜20年度)の森林農業班プロジェクトメンバーを中心として、地理学、農学、林学、社会学、人類学などの多分野に亘る計15名の執筆者により、ラオス農山村の姿を描き出そうとした、ラオス研究を担う新世代の嚆矢となる論文集である。同プロジェクトでは、『図録メコンの世界――歴史と生態』(2007、秋道智彌(編))、『論集モンスーンアジアの生態史――地域と地球をつなぐ』全3巻(2008、秋道智彌(監修))も同社から出版されており、本書は、メンバーの中堅である編者の手による独立した企画ではあるものの、実質的にはこれらの成果を併せて「三部作」を構成するものとみなしてよい。
日本におけるラオス研究に関する出版は、200年代前半から急速に発表されるようになったが、一般書を除いては本書の執筆者の一人でもある中田[2004]や拙著[園江 2006]を含め、特定の地方や調査地における調査を中心としたものがほとんどであり、その点において本書の内容は、各章で論じられている地域的広がりに広狭はあるものの、全体としてラオス全国を学際的見地から考察した質と量を伴う学術的結晶として画期的であるといえる。