アジアで成功する企業家の知恵

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増田 辰弘・馬場 隆 著
定価1500円+税
四六判変形並製・256ページ
ISBN978-4-8396-0243-7

●書評


【関連書】香港・広東で働く 北京で働く 上海で働く 韓国で働く タイで働く フィリピンで働く


 アジアの時代がやってきました。目を見張るような高い経済成長率、急上昇の購買力、政治の安定…。今まさにビジネス・チャンスはアジアです。しかし、アジアで成功するのはそんなに簡単なことではありません。これまでのアジア観のままで進出した企業はことごとく討ち死にしています。まずは現地で実績を上げている日本の企業のノウハウを学ぶ必要があります。成功を引き寄せた彼らの<知恵>とは? 日本で最も精力的なアジア・ウォッチャーが中国・タイ・ベトナム・インドのビジネス現場から報告します。

【著者はこんな人たちです】

増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年島根県生まれ。法政大学法学部卒。プラザ合意以降の第1次アジア投資ブーム時からアジアの日系企業を取材し、現在まで25年間で取材企業数は1500社を数える。今後15年で前人未踏の3000社を目指している。毎月1回東京で「アジアビジネス探索セミナー《を開催するほか、地方、アジアでも出前アジアビジネス講座を開設している。著書『アジアビジネス失敗から学ぶ成功する法』(産能大出版部、1995年)、『中国ビジネス勝利の方程式を解く』(グローバルヴィジョン、2004年)など多数。

馬場 隆 (ばば たかし)
 1949年東京生まれ。中央大学文学部卒業後、エネルギー専門誌記者を経て、1992年、国際ビジネス誌『フォーブス日本版』創刊に参加。2009年から経済・人物ものを中心テーマに執筆。主要新興国経済の動向を探る国際経済ウオッチャーとして活躍している。

【目次】

はじめに―――空前のアジアブームが始まった
    資料・アジアの主な国・地域の概要と投資環境

第1部 ビジネスマンのためのアジア情報
    大づかみに知るアジアの変化
    アジア・ビジネスで失敗しないために
    変化を続ける中国―驚きの12連発
    タイで実感する最新アジア―驚きの8連発
    アジアで通用するのは「草食系」、「素人発想」、「巻き戻し能力」

    【特別寄稿】いまなぜ若者はアジアを目指すのか

第2部 企業実践編―アジアで成功する企業人の知恵
    1 既存のビジネスインフラの活用
    リスク管理を徹底した自動車部品業イイダ産業、カイセ工業(タイ)
    ★ 現地の内需にも対応できるパートナー探し――先行事例を徹底調査して低コスト参入を実現
    【コラム】 日本化するバンコク

    2 日本で一番少額でのアジア進出を追求
    智恵を張り巡らせたバンテック(中国)
    ★ 外国人研修生が母国で創業――ゲリラ戦をしかける機動的経営
    【コラム】 冷房車や寝台車も出現し使い勝手のいい高速バス

    3 ワンストップサービスで日本企業の進出を支援
    何でも見てやろう精神で活路を開いたアイ電子工業(ベトナム)
    ★ ダナン市政府から依頼されたリース工場を経営――オーナー系だからできる現地への貢献
    【コラム】 フエで乗った白バス

    4 海外人脈のつくり方、生かし方
    ベトナムに惚れて尽くした三谷産業(ベトナム)
    ★ 日系企業として現地に一番乗りして人脈づくり??ステップを踏む慎重さとの合わせ技

    5 日本式サービスを直移転
    運送業の殻を破った多摩運送(中国)
    ★ アジアが敬意を払う日本仕様は信頼の印――日本式ビジネスモデルで顧客拡大
    【コラム】 迷子になった巨大な和食レストラン

    6 食品産業の成功のカギは機密保持
    夫婦春秋で成功させた松井味噌(中国)
    ★ 中国の食品産業で最大のノウハウは機密保持――差別化を維持するには独自の対策が必要
    【コラム】 中国語を話す日本人が増えている

    7 21世紀型のアジア企業を追求
    若き日本人起業家の意地を見せたアジアパートナーシップファンド(APF)(タイ)
    ★ 常識破りの発想で現地証券会社を運営――アジアで通用する金融業の未来を切り開く
    【コラム】 上昇するアジアの賃金と生活費

    8 リスク情報を顧客に定期便で届けて共存共栄
    時代の先端を行く情報商社三京物産
    ★ 強烈な危機意識が次の一手を生む――いかにリスクと付き合うか
    【コラム】 中国で生きがいを見つけた女性たち

第3部 特別編―将来を見据えて
    日本企業を超える複合的経営
    日本企業とアジア企業の長所を組み合わせたCCSアドバンステック(タイ)
    ★ 営業回りはせずお客を集める製造業のコンビニ――技術は日本並み、経営はグローバルスタンダード

    系列のしがらみを越えアジアへ展開
    ★ 台湾メーカーに部材を供給し多極化市場に乗り出す

    アジアのその次を目指しインドに進出
    「トップラーメン」を売り出した日清食品ホールディングス(インド)

    ★ インドビジネスに立ちはだかる壁に挑戦――ヒンズー・イスラム圏でのビジネスノウハウを磨く

あとがき―――アジアから吹いてくる「活気」の風

【まえがき】から

はじめに――空前のアジアブームが始まった

 いま、日本ではあまり表面には出てこないが、空前のアジアブームが起きている。そのことを端的に象徴しているのが、アジアと日本を結ぶ航空路線の混みぐあいだ。かつてリーマンショックの直後には、アジア便は多くの路線で空席が目立っていた。ところが最近は、中国便だけでなく、マレーシア、タイ、ベトナム、インド便などを含めてどの路線も満席に近い。路線によっては、予約してもなかなか席が取れないケースもある。  私(増田)の場合で言えば、2010年8月初旬、中国・青島での取材に、ある木工会社の社長が同席したいというので航空券を予約しようとしたところ、満席で席がとれず、やむなくその社長は二日遅れで現地入りした。
 また、私の大学院ゼミの中国人の学生が、9月中旬に瀋陽から成田に戻ろうとしたところ席が取れず、やむなく韓国の仁川空港経由で戻ってきたが、仁川で一泊せざるをえなかった。上海や大連便だと、便数も多く予約できないことはないが、青島、瀋陽便のように便数が少ないと、予約しようとしても、その日は全席が埋まっているという事態が生まれている。
 一方、投資の面から見ると、日本から台湾、韓国への投資はピーク時に近い投資件数、投資額である。
 アジア各地を旅するとわかるが、サービス業のアジア進出が加速している。大手チェーン店も例外ではなく、タイにはダイソーが50店舗も出ている。
 また、ソウルや台北などでは、日本からレストランや美容室、ビジネスホテルといった小規模事業での進出が目に見えて増えている。ソウルには、日本の剣道や柔道の武具を製造、販売する会社が進出しているが、日本より競争が少ない分、売り上げは好調だという。
 ソウルや台北などアジアの主要都市は、ビジネスインフラが整っていて、既に日本国内化した市場になりつつあると考えてもいい。
 そしてこの区域が次第にアジアに拡がって行く。確かに、リスクが低下した分、リターンは少ないが、日本国内だけでビジネスをするよりはずっと効率がいい。アジア市場の開拓というよりも、日本市場の拡大と見た方が良い。
 アジアビジネスでもうひとつ見逃せないのが、現地で活躍する日僑型企業、現地同化型日本人である。戦略的にアジアで生きるビジネスノウハウを身に付けた新しいタイプの日本人の存在である。中国企業が短期間に急速に技術レベルを上げたのも彼らの役割が大きい。これは、日本マーケットで充分使えなかった企業、人材を中国が使ったという見方もできる。
 この20年、日本企業はリストラの歴史であるが、逆に言えばひたすら中国とアジアに人材供給がなされた歴史でもある。オーバーに言えば、現在の状況はこのリストラ社員の逆襲と見ることもできる。オートバイでも薄型テレビでも、彼らを抜きにして今日のアジア企業の発展はなかった。日本社会の歪みが生み出した現実を我々は今、直視すべきである。
 一方、この数年、中国では反日デモ、ストライキ、尖閣列島などの問題が起きた。だが、次々と繰り広げられる彼らの周到な戦略を見て、ただ中国嫌いになるのでなく、彼らのやり方から学ぶという姿勢が取れないものかと常々思っている。日本人は、どこの国とでもただ仲良くすることが外交で、こちらが好意的であれば相手もそれに応えてくれるはずだと思いがちだが、この島国的平和主義は外に出ると通用しない。同様に、アジアビジネスにも、戦略的な発想が求められている。
 現在、中国では徳川家康の本が書店に山と積まれ、大ブームになっている。二〇年前ならこんなことは絶対に起きなかった。まさに、中国人は鳴くまで待ったのである。
 日本の高成長期に中国人、アジア人が日本人をどのように見ていたのか。日本企業、日本人の側に彼らを見下すような振る舞いはなかったのか。そこに思いを馳せるべきではないだろうか。何よりも、感情的にならないことが大事である。
 本書は、第1部「ビジネスマンのためのアジア情報《と第2部「企業実践編――アジアで創業する知恵《、第3部「特別編――将来を見据えて《に分かれている。第1部では、アジアの新しい潮流を、社会風潮もビジネストレンドも含めてまとめてある。第2部では、これまでほとんどマスコミに登場してこなかった日系企業のアジア進出の工夫と知恵を、現地取材をもとに紹介した。アジアではもはや従来型の高コストの進出、あるいは日本型ものづくり至上主義だけでは、やっていけなくなった。アジアで成功しているのはそのことを理解している企業人である。彼らの実践的経営ノウハウが少しでも読者の参考になれば幸いだ。

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