シンガポールの基礎知識(アジアの基礎知識2)


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 田村慶子

 定価2000円+税
 A5判上製・222ページ・図表写真多数
 ISBN978-4-8396-0294-9 C0330

 【関連書】 タイの基礎知識   

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一気に読めるシンガポール概説です。苦労せずにシンガポールについての「必要最小限」の知識が身につきます。
すべりだしは→資源のない小国ながら、シンガポールの一人あたりGDPは二〇一四年で五万六〇〇〇米ドルに達した。これは独立時(一九六五年)の約一〇〇倍である。
……


【シンガポールはどんな国か】

豊かで安全な都市国家
 シンガポールはマラッカ海峡を臨むマレー半島の南端に位置する小さな都市国家で、大陸部東南アジアと島嶼部東南アジアを結び、インド洋と太平洋をつなぐ十字路に位置する。地震や台風という自然災害の心配はほとんどない。
 赤道直下の熱帯モンスーン気候に属しているため一年中高温多湿だが、雨季の一〇月から三月はスコールが多くて気温も下がるので、夜は肌寒い。四月から九月は乾季で雨が少なく、空気も比較的乾燥している。五月から八月はかなり暑く、連日三〇度を超える日が続く。ただ、乾季であっても短時間のスコールにはたびたび見舞われる。スコールは雷を伴うことが多く、数メートル先の建物さえ見えないくらいの豪雨と、強烈な雷鳴と落雷の光が続くこともある。しかし近年は地球全体の異常気象のせいか、スコールの時間が以前よりも長くなり、雨季と乾季の区別が曖昧になってきた。
 シンガポールは豊かな国である。『グローバル・ファイナンシャル』誌によれば、二〇一三年のシンガポールの一人あたり国内総生産(GDP)は、ルクセンブルグ、カタールに次いで世界第三位にランクされた。ちなみに日本は第二二位である。
 この国がいかに豊かなのかは、空の玄関口チャンギ国際空港でまず実感できる。この空港は年間六六〇〇万人の収容能力を持つ三つのターミナルを持ち、世界六〇ヵ国二八〇都市を結ぶ航空便が乗り入れているという巨大なハブ空港である。空港内にはトランジット客のために、映画館やプール、シャワールーム、さらには無料の市内ツァー(五時間以上待ち時間があれば利用可能で無料)も行なわれている。さらに、数多くの飲食店や免税のブランドショップが並び、宿泊施設も充実している。チャンギ空港は旅行雑誌のアンケートで「二〇一五年世界で最も優れた空港」に三年連続で選ばれ、さらに空港内のバーラウンジ、プール、ホテルなどの娯楽施設が評価され、「空港内のレジャーや娯楽施設が最も整っている空港」にも七年連続で選ばれている。
 チャンギ国際空港からタクシーで約三〇分走ると、最大の繁華街オーチャード通りに着く。ここは世界有数のショッピング通りで、伊勢丹や高島屋などの日系百貨店やアルマーニ、ルイ・ヴィトンやシャネルといった高級ブランド専門店、高級ホテルが軒を連ね、お洒落なレストランやカフェもひしめき合っている。都心だけではなく、郊外の拠点地区にも大型のショッピング・モールがオープンし、新しい高層の公団住宅や病院もある。わざわざショッピングのためにオーチャードまででかけなくても、ほぼすべてのことが郊外の拠点地区でも可能となっている。
 水道水がそのまま飲めることも、この国が豊かで安全であることを示している。水資源に乏しいシンガポールは、原水をマレーシアから購入し、国内で浄水して上下水道として使い、さらにその浄水をマレーシアに売却している。この浄水技術が優れているために、水道の水を(けっして美味しくはないが)飲むことができる。
 治安は日本よりも良いと言えるかもしれない。犯罪発生率は一〇万人あたり一六七件で、殺人事件だけに限ると〇・二件、日本よりも低い。犯人検挙率は五〇%を超える。
 また、都心から郊外に至るまで林立する高層団地群の眺めも、豊かなシンガポールを象徴する風景の一つであろう。
   二〇一二年でシンガポール人の八二%がHDB(Housing Development Board 住宅開発庁)フラットという高層の公団住宅に住む。HDBフラットには日本の1DKにあたる一部屋タイプから、4DKにあたる五部屋タイプ、およびエクゼクティブ・タイプと呼ばれる五部屋以上のゆったりしたタイプがある。価格は新規分譲と中古、また場所によって大きく異なるが、フラットの広さは日本のアパートやマンションよりもかなり広い。HDBフラットに住む世帯の四〇%が四部屋タイプに、三一%が五部屋およびエクゼクティブ・タイプに住んでいる。
 なお、HDBフラットは分譲(九九年リース)が原則である。購入せずに賃貸フラットに住むためには厳しい所得制限があり、一定以下の低所得者しか賃貸フラットに入居することはできない。したがって、多くの人々はHDBフラットを購入せざるをえないから、フラットの九三%は分譲(持ち家)となっている。
 一方、世帯平均月収が約一万シンガポールドル(一シンガポールドルは約九二円)以上の高所得者は公団に住むことができないため、価格の高いコンドミニアムや一戸建て住宅に住まなければならないが、このような高所得者はこの五年間で一六・五%から一七・八%と増加し、豪華な一戸建てや最新デザインのコンドミニアムの売れ行きは好調である。国内の高所得者に加え、海外の富裕層や海外投資家も購入しているため、住宅価格は高騰している。一戸建てやコンドミニアムの値段は日本よりもかなり高い(写真2)。
 ただ、このような豪華な一戸建てに住む富裕層と賃貸フラットに住む貧困層の所得格差はものすごく大きい。富裕層が高級車を見せびらかすように自宅車庫に何台も並べる一方で、生きていくのがやっとという貧困層の暮らしは悲惨である。シンガポールには失業保険も公的な年金制度はなく、政府の社会的な支援は短期的一時的なもので、政府は貧困者や障がい者のような恵まれない人々には雇用機会を与えて自立を促し、また「多くの援助の手」(募金やボランティア)が支援を行なうことを奨励している。

【目次】

1 シンガポールはどんな国?
2 都市国家の様々な顔
3 歴史――都市国家の誕生と独立
4 新たなる国民国家の創造
5 政治と行政
6 産業・経済・労働
7 対外関係
8 発展の「影」
9 社会の変動
文献案内・索引

【コラム・シンガポールの10人】
リー・クアンユー、ラッフルズ、タン・カーキー、リム・チンシオン、ジェヤラトナム、ロウ・チァキアン、ゴー・ケンスイ、リー・シェンロン、ゴー・チョクトン、タン・ピンピン

【執筆者はこんな人】

田村慶子(たむら・けいこ)
福井県生まれ。津田塾大学大学院国際関係学研究科修士課程修了。九州大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。現在は北九州市立大学法学部政策科学科教授。
専攻は国際関係論、東南アジア地域研究。シンガポール国立大学客員研究員(2011~12年)を含めて、数多くのシンガポール滞在経験(長期、短期)を持つ。

主要著書
『「頭脳国家」シンガポール─超管理の彼方に』(講談社、1993年)、『シンガポールの国家建設─ナショナリズム、エスニシティ、ジェンダー』(明石書店、2000年)、『多民族国家シンガポールの政治と言語─「消滅」した南洋大学の25年』(明石書店、2014年)、『東南アジアのNGOとジェンダー』(共編著、明石書店、2004年)、『現代アジア研究第1巻─越境』(共編著、慶應義塾大学出版会、2008年)、『東南アジア現代政治入門』(共編著、ミネルヴァ書房、2011年)、『シンガポールを知るための65 章』(編著、明石書店、2013年)など。





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