top of page

ジャグモーハンの死

モハッシェタ・デビ 著
大西正幸 訳

5121C2P5S4L.jpg

定価2000円+税

四六判・上製・270ページ 

ISBN978-4-8396- 0065-5 C0397

1992年1月初版

〔関連書〕

現代インド文学選集

​ご購入・ご予約はこちらから!

AmazonLogoTM._CB1198675309_.png

インド、ビハール州南部は古くからサンタル、ムンダ、ホーなど、オーストロ・アジア系諸民族の居住地域でしたが、彼らは中世以来、外来の上位カースト・ヒンドゥーたちによって差別と搾取を受け続けてきました。イギリスからの分離独立以後、この地域は、インドの開発・工業化の政策のターゲットとされ、重要な社会改革運動が進められてきましたが、彼らの社会的・経済的状況はいっこうに改善されませんでした。他方、北ベンガルに起きた農民反乱を契機に1969年に形成されたインド共産党は、武力闘争によって人民革命を起こすことを目指しましたが、この闘争の中核となって警察との間で凄惨なテロリズムを繰り返したのは都市部のインテリ、特に学生たちでした。農村部と都市部でのインドの宿痾とも言える対立と闘争を描いた中編2つをおさめました。

【著者】モハッシェタ・デビ

1926年、東ベンガルのダッカに生まれ、幼いころ、西ベンガルに移る。シャンテニケトンのタゴールによって創設されたビッショ・バロティ大学で英文学を学ぶ。教職を中心にさまざまな職に就いたのち、職業作家としての地位を確立。ベンガル分離独立前後の共産主義運動に身近に接した経験から、インド先住民の民族史と現代インド社会の直面する深刻な諸問題をテーマとする作品を多数発表してきた。ベンガル近代文学は、母なる自然との調和、情緒的な人間関係といった世界観に基づく抒情的な散文スタイルを主流としてきたが、彼女の「自然」は緑と水に溢れたガンガー・デルタではなく、ベンガル西端からビハール、オリッサに至る丘陵地帯のむき出しの荒々しいそれである。文体も、歴史の流れを主体にしたものでは叙事的、現代をテーマにした作品ではルポルタージュ風の乾いた文体で、ベンガルの抒情的な流れを意識的に断ち切っている感がある。ベンガル文学史の中ではきわめて特異な存在で、ベンガルの一般読者には必ずしもうけがよくないが、彼女が現代インド文学において最も重要な作家のひとりであるということは誰しもが認めるところである。
 

【訳者】

大西正幸(おおにし まさゆき)

 

東京大学文学部(英語英米文学科)卒。オーストラリア国立大学にてPhD (言語学)取得。専門は、北東インド・沖縄・ブーゲンビル(パプアニューギニア)の危機言語の記録・記述と、ベンガルの近現代文学・口承文化。

1976~80 年、インド(カルカッタとシャンティニケトン)で、ベンガル語文学・口承文化、インド音楽を学ぶ。その後も、ベンガル語文学の翻訳と口承文化の記録に携わっている。

ベンガル語文学の翻訳は、タゴール『家と世界』(レグルス文庫)、タラションコル・ボンドパッダエ『船頭タリニ』(めこん)、タゴール『少年時代』(めこん)、『タゴール 10の物語』(めこん)、『タゴール 愛の物語』(めこん)など。現在、めこんのHPに、近現代短編小説の翻訳を連載中。

【目次】

ジャグモーハンの死   千八十四番の母

 

モハッシェタ・デビと会う
 

大西正幸
 

…はじめて彼女を訪ねたのはもう何年前のことか。私の声に応えて扉をあけ、厳しい顔で、銀縁の眼鏡の奥から鋭いまなざしを投げ、「?」と問いただしてきた。不意を打たれてぎょっとしたのを覚えている。

  ……

 彼女がいかに原住民や低カーストの人々のことを書こうと、彼女の出自がベンガルの中産階級知識人であることは紛れもない。彼女の活動や文学の振幅はだから彼女の出自と彼女が近づこうとする現実の間に緊張の糸がどこまで引っ張れるかにかかっている。この糸が切れるか切れないかのスレスレを渡って行くしかないのだ。ベンガル文学というのは大体において余裕の産物だったので、こういう余裕のない生き方を表看板にした文学者というのは今までいない。ベンガル語でビハールやマディヤ・プラデーシュの原住民やカースト民の生活を内側から描こうなどという気違いじみたことを考えた文学者も、いうまでもなくいない。こういう風に自分を追いつめて行くのは、彼女の最初の夫だったビジョン・ボッタチャルジョや叔父のリッティク・ゴトクらの共産主義運動、民衆演劇運動に若い頃かかわっていたことなどが影を落としているのかもしれない。でももうひとつ、ベンガルの知識階級自体が今追いつめられていることの象徴のようにも思える。彼女と会う毎に何か氷の刃の上を刃渡りしているような印象に襲われるのだ。

  ……

(「ジャグモーハンの死」挟み込みの小冊子「モハッシェタ・デビと会う」から)

モハッシェタ・デビ.jpeg

株式会社めこん

  • Facebook
  • X

Tel.  03-3815-1688  /  Fax. 03-3815-1810

〒113-0033 東京都文京区本郷 3-7-1

Copyright Mekong publishing All rights reserved

bottom of page