2004年12月26日のスマトラ沖地震による大津波は、アンダマン海を越えて、タイ南部にも大きな被害をもたらしました。プーケットなど南部のリゾートでの死者・行方不明者は8240名にのぼっています。この時、日本の報道機関の通訳として2週間にわたり被災地の実情を見た著者が、悲劇の実態を語りました。被災した人たちの悲しみと共に、タイ人のナムチャイ(思いやりの心)が胸をうちます。
【著者はこんな人】
白石昇(しらいし・のぼる)
バンコク在住の言語藝人。1969年5月1日長崎県西彼杵郡多良見町生まれ。
『抜塞』で第12回日大文芸大賞を受賞。
バンコクで翻訳・通訳・取材に従事。
訳書にノート・ウドム・テーパーニット『エロ本』、『gu123』。
白石昇サイト
【目次】
第1章 プーケットへ
12/26 クラビと日本からの電話
12/27 死者六百二十七人
12/28 初めて見る遺体
12/29 ご両親、遺体と対面
12/30 地獄から来たボランティア
12/31 エート・カラバオの追悼支援歌
第2章 瓦礫のピピ島、追悼のプーケット市街へ
01/01 ナムチャイ、心の水
01/02 祈る人
01/03 人が死ぬということ
01/04 津波後のビーチ
01/05 一万人追悼式
01/06 友達との別れ
第3章 パンガー県北部、被災者キャンプへ
01/07 不快
01/08 日本の検死チーム
01/09 被災児童の作文
01/10 助手の分際でぶち切れ
01/11 被災者キャンプの夜
01/12 それは死神のように
01/13 パトンビーチの在住日本人
01/14 検死チームの記者会見
01/15 ぬるい状況
01/16 少年が描いた絵
第4章 スリン島へ
01/17 ビジネスじゃなく、ナムチャイ
01/18 津波を予知した人たち
01/19 透明な海
本文から
「第1章 プーケット」より
……迎えに来たよ、帰ろうね。母親は茶色く変色して仰向けになった娘の前に立ち尽くしたままそう言う。そして、声を震わせながら遺体に向かってもう一度、みんな待っているよ、帰ろうね、と言った。父親は足元の娘を見つめてうつむいたままだった。ボランティアの通訳女性が戻ってきて、小さく背を曲げて嗚咽している母親を横から抱きしめる。私は担当の人に、娘さんだそうです。間違いないそうです、とタイ語で伝えた。彼は、わかっている、というように黙って頷いた。……