祖先と資源の民族誌

祖先と資源の民族誌――中国雲南省を中心とするハニ=アカ族の人類学

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 稲村務著

 定価7500円+税
 A5判・上製ハードカバー・566ページ
 ISBN978-4-8396-0296-3 C3039
 
             

民族誌論、エスニシティ論、歴史人類学、資源人類学から、ハニ=アカ族の社会構造と文化を論じた大著。



【目次】
第1部 祖先と資源の民族誌
 序章
  第1節 問題の所在
  第2節 民族誌論とエスニシティ論
  第3節 歴史人類学と資源人類学
  第4節 ハニ=アカ族研究
  第5節 調査の概要
  第6節 本稿の構成

 第2章 創られる「民族」
  第1節 「支系」の社会人類学的整理
  第2節 ハニとアカ

第2部 祖先祭祀における「民族」
 第3章 社会構造の概要
  第1節 2つの生態系:調査地の地理的概況
  第2節 村落構造の比較
  第3節 リネージ体系の比較

 第4章  祖先祭祀
  第1節 霊的存在の分類
  第2節 神話の構造分析
  第3節 村落と時間意識―逃走のための年中儀礼―
  第4節 葬送儀礼と祖先
  第5節 集合的記憶としての系譜
  第6節 政体の記憶

第3部 資源の民族誌
 第5章 表象される「文化」
  第1節 「文化」の客体化、実体化、資源化
  第2節 出版から見た「ハニ族文化」
  第3節 翻訳の政治経済

 第6章 資源化される「文化」
  第1節 ハニ族における「民族」+「文化」+「資源」
  第2節 紅河ハニ棚田の世界文化景観遺産登録から見る「文化的景観」と「風景」
  第3節 ABS法と薬草知識
  第4節 山を目指していた人々――ラオスと台湾のハニ=アカ族

 終章
  第1節 議論の整理
  第2節 結論


【序章・第1節 問題の所在】から
 今日の世界で「民族誌」などというものを書く理由があるだろうか。インターネットに情報は溢れ、当該「民族」の知識人たちは学術書も含めて無数の書物を出版し、彼ら自身による学会も組織され、人類学者が1年ぐらい調査したからといって経験できない資料が提示されている。
 「民族誌」という語を定義ではないにせよ、敢えて「民族」についての書き物だと限定したとしても、我々はいったい何を語ればよいのであろうか。本稿では、これまでのエスニシティ論が明らかにしたように「民族」が所与の自然な集団のラベルだとは思っていない。しかしながら、全くの社会的な構築物だというわけでもない。後述するように、それは極言すれば2つの問題に関わっている。1つは死の問題であり、誰にでも訪れる死を何らかの集団と結び付けて解決しようとする人間の志向性であり、人は自分が死んでも残る集団を想像する。それは社会構造と人類学が呼んできたものと重なり合うところが大きい。本稿の扱うハニ=アカ族は口頭で伝承されてきた長い系譜をほとんどの地域と階層で伝えており、祖先祭祀は彼らの宗教的実践の中核的な位置にある。
 いま1つは利益や状況が生み出すものであり、生のために人間の集団的カテゴリーを利用しようとすることである。○○族と呼び、呼ばれることによって生み出される「資源」について語ることである。それは「文化」と人類学を含む現代の人々が呼ぶものと重なり合う。「○○族文化」という語で語られる「文化」こそ、本稿の主題である。本稿では主に彼らの植物知識を中心に資源人類学的観点から「文化」の政治経済を扱う。植物の利用は彼らの文化のマテリアルな側面であり、こうした「文化」はプーアル茶や薬用植物の利用から棚田の世界遺産指定に至るまでグローバルな政治経済の中にある。
 こうしたアプローチによってもたらされる視点はネイティヴに代わって文化を語ろうとするものではなく、本人たちでは語りにくい事柄ではある。「文化/民族について語ること」は近代的自我の発露であり、そこには国家やグローバル社会が相互に関連しあっている。ハニ=アカ族は中国、タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナムに分布し、それぞれの特殊な「近代」を生きている。元は現在の中国領内から拡散していった人々であり、それぞれの「文化」の語り方を比較することで彼らの適応している特殊な「近代」を考察することができる。それは本稿の提唱する世界民俗学の視点でもある。
 本稿は語られた「民族文化」をめぐる政治経済的過程と、実際の人々の祖先をめぐる観念や実践との間を往復しながら、エスニシティ論の枠組みを用いて、それぞれの特殊な民俗学的「近代」を明らかにすることを目的とした「民族誌」である。


【著者はこんな人】
稲村 務(いなむら・つとむ)
1966年佐賀県生まれ。
琉球大学法文学部教授。
筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科中退。
論文博士(学術)(東北大学2015年3月6日付)。
【専攻】社会人類学、文化人類学。


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