ミャンマー民主化運動――学生たちの苦悩、アウンサンスーチーの理想、民のこころ

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 伊野憲治

 定価5000円+税
 A5判・上製ハードカバー・442ページ
 口絵(カラー):1988~89年民主化運動ビデオ記録(16ページ)
         アウンサンスーチー遊説行(16ページ)
 ISBN978-4-8396-0311-3 C3031
 装丁=臼井新太郎
             

【紀伊国屋電子書籍Kinoppy】 ミャンマー民主化運動 - 学生たちの苦悩、アウンサンスーチーの理想、民のこころ

 ミャンマーの現場からの生々しい報告と豊富な資料に基づく的確な分析。学生たち、アウンサンスーチー、一般民衆の立場からミャンマーの民主化運動を再構築した大著。民主化運動と同時進行の著者の「ラングーン日記」、1988~89年の民主化運動のビデオ記録、アウンサンスーチー遊説行のビデオ記録も臨場感があります。ミャンマー研究、アジア現代政治史研究に必読の書となるでしょう。


口絵より
    口絵


【目次】
第1部 民主化運動の原風景
 第1章 運動の発端
 第2章 「8888学生決起」とクーデタ
 第3章 軍事政権の登場とNLD
 第4章 1990年総選挙と制憲問題
 第5章 新憲法の成立と「アウンサンスーチー政権」の誕生
第2部 学生たちの苦悩、アウンサンスーチーの理想、民のこころ
 第1章 学生たちの苦悩
 第2章 アウンサンスーチーの理想
 第3章 民のこころ
 補章1 軍の論理(ミャンマー国軍政治介入の論理――「国民政治」概念を中心に)
 補章2 少数民族の悲願(ミャンマー民主化運動と少数民族問題)
 参考文献
ビルマ語語句・人名対照表/索引



【まえがきから】
 2016年ミャンマーでは、アウンサンスーチー(Aung San Suu Kyi)率いる国民民主連盟(National League for Democracy : NLD)政権が誕生し、1988年に始まる民主化運動が一応の帰結を見た。しかしながら、その後のミャンマーの民主化の状況は決して明るいものとは言えない。そこには、変わったものと変わらなかったものが存在している。例えばNLD政権成立直後にアウンサンスーチーが国家指南役(国家顧問)に就任し、大統領に対して直接的に強い影響力を持つ存在となったことなどは、現行憲法(2008年憲法)の規定解釈の問題ではなく、政治的雰囲気の中で大多数の暗黙の同意の上に行なわれた。トップが代わり、そのトップの考え方によって政治も大きく代わったかに見えるが、トップの意向に沿った上位下伝の意思決定メカニズムにはほとんど変化はない状況が続いている。
 本書は、こうしたミャンマーの現状を念頭に置きながら、1988年に始まる民主化運動をいま一度見直してみることを目的としている。
 本書は、2部構成となっている。
第1部では、著者が1988年3月末より91年2月末までの約3年間、外務省の専門調査員として、在ミャンマー日本国大使館に勤務した際の現地体験と現地で収集した資料を中心に、関連資料も参照しながら、88年に始まる民主化運動の実像を描くことを目的としている。章・節は時系列的に構成されているが、第1章第1・2節および第5章を除いて、各節末に「ラングーン日記抄」を本文の記述を補完するために挿入している。「ラングーン日記抄」は、著者が現地において記した日記の中で運動に関係のあると思われる箇所を抜粋したもので、既に別途公表済みのものであるが、本書では、その中からさらに当該節と関係深い記述を抜き出した。その意味で「ラングーン日記抄」の部分は、フィールド・ノート的性格の強いものとなっている。本文の記述は、こうした現地体験から得た知見をもとに、関連資料を見直すことによって、より正確さを追求しており、歴史学で言う同時代史的記述に近いものである。運動全体の流れを本文で摑みながら、その記述にいわば著者の血肉を盛り込んだのが「ラングーン日記抄」の部分にあたる。第5章は、既に離任後の状況の記述であるが、現在の状況について若干触れてはいるものの、中心的記述は、1998年にNLDが通称「10人委員会」と呼ばれた国会議員代表委員会(Cmmittee Representing Parliament : CRPP)を設置するまでの時期に置かれている。2008年に新憲法が成立し、その憲法に基づいて2010年総選挙が実施され、翌11年に民政に移管するが、そこに至る基本的な政治的対立構造が、この時期に出来上がったと考えるからである。
 第2部では、第1部での記述をベースにしながら、民主化運動に身を投じていった、学生たち、アウンサンスーチー、そして民衆の論理を明らかにすることを目的としている。第1章では「学生たちの苦悩」、第2章では「アウンサンスーチーの理想」、そして第3章では「民のこころ」と題して、それぞれの論理の絡み合いを全体としては描いている。また、第1部とは逆に、各章の冒頭で、その章の問題関心の出発点となった、さらに本書全体の問題意識の根底に関わる現地体験を「ラングーン日記抄」から抜粋して掲げることにした。 通常、民主化運動を記述する場合、権力側の論理との対比において論じる場合が多い 。また、ミャンマーにおいて民主化問題を論じる場合には、少数民族問題、人種問題、宗教問題といった観点からの分析も必要不可欠であると言える 。本書では、この点に関し、補章において若干の問題提起は行なっているが、十分な議論が展開されているとは言い難い、。これらの点に関しては別の機会に改めて論じたい。本書は、その試みがどの程度成功しているかは定かでないが、民主化勢力に焦点を絞り、変らない「民のこころ」に吸収されていく「アウンサンスーチーの理想」、その両者の論理の間でもがく「学生たちの苦悩」を描くことを目的としている。


【著者はこんな人】
伊野憲治(いの・けんじ)
1959年生まれ。東京外国語大学大学院地域研究研究科修了、一橋大学より博士号(社会学)。博士課程在学中の1988~91年、外務省在ミャンマー日本国大使館専門調査員。北九州市立大学基盤教育センター教授。


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