第1分冊 カンボジアの行政 | 第2分冊 ナガラワッタナガラワッタより1 | ナガラワッタより2 | ナガラワッタより3 | |
本書は、A.シルベストル(1879-1937)による『カンボジアの行政』(1920)、20世紀初頭のカンボジア語紙『ナガラワッタ』の2冊組である。
『カンボジアの行政』の原著者シルベストルは、カンボジアの高等弁務官、インドシナ総督代行を歴任、自ら行政学校でも教鞭をとった。本書の底本のクメール語版は、カンボジアの国立公文書館、およびフランス、ヴァンセンヌの国防省歴史資料部に所蔵されている。このテキストで行政の在り方を学び、その後、クメール政府の官員となった多くのクメール人が『ナガラワッタ』の読者や支持者となったと考えられる。本訳書『カンボジアの行政』では、訳者による丁寧な訳注があり、巻末には語彙集が付けられている。
『ナガラワッタ』は、1936年12月から1942年7月までカンボジアで発行されていた民間のクメール語新聞である。新聞紙名の「ナガラワッタ」は、クメール民族の象徴ともいえるアンコール・ワットを意味する。本訳書では底本としたマイクロフィルム(ACRPPが1975年に作成した、全2巻)のうちの第1巻に収録されている第8号(1937年2月6日発行)から第149号(1939年12月30日)に掲載されているほぼすべての構成要素(国内ニュース、海外ニュース、社説、投書欄、物価一覧、昇格・合格者一覧、広告欄など)を翻訳したものである。また、訳注には、背景にどのような事情があるのか、といった解説や、『カンボジアの行政』との関連についても書かれている。
【編者のコメント】
本書は、東京外国語大学名誉教授である坂本恭章先生が、カンボジア研究はもとより、東南アジア研究の発展を願って、翻訳し、私財を投じて出版を実現させたものです。『カンボジアの行政』の底本となったクメール語版テキストは、現在とは異なる正書法で表記も統一されていません。また、マイクロフィルム化されたナガラワッタ紙は、活字の摩滅、紙の折り目による文字列の消失などにより、文字そのものが判読困難な箇所が多くみられます。これらの資料を利用するには、非常に高度な読解力が不可欠です。本書は原文に忠実に訳してあるので、他の研究者も一次資料と同様に学術利用することができます。
本書は、坂本恭章先生の長年にわたる膨大な資料の収集およびその電算化、通時・共時両面からの言語研究、そして辞書編纂という学術研究成果の蓄積によっているといえます。
(編者:上田広美、岡田知子)
【訳者はこんな人】
坂本恭章(さかもと やすゆき、SAKAMOTO, Yasuyuki)
1935年生まれ。東京外国語大学名誉教授。専門は言語学(モン・クメール語族)。
主な著書は、『カンボジア語入門』、『タイ語入門』(以上大学書林、1989年)、『カンボジア語辞典』(全3巻、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、2001年)、『王の年代記』(明石書店、2006年)、論文は“a et ā de khmer ancien”(1974)、 “e de khmer ancien”(1970)、“sur quelques voyelles de khmer ancien”(1971)、“The source of Khmer /ɯa/”(1977)、“i , ī, ya, yā de khmer ancien”(1970)、(いずれも掲載誌は省略)など。
1996年、カンボジア王国ムニサラポアン勲章コマンド―ル章受章。
上田広美(うえだ ひろみ、UEDA, Hiromi)
1966年生まれ。東京外国語大学大学院総合国際学研究院准教授。専門はカンボジア語学。
著書は、『カンボジアを知るための62章』(共編著、明石書店、2012年)、『ニューエクスプレス カンボジア語』(白水社、2008年)、『カンボジア語読解と練習』(白水社、2017年)、論文は「クメール語の動詞句の連続について」(掲載誌は省略、2017年)など。
岡田知子(おかだ ともこ、OKADA, Tomoko)
1966年生まれ。東京外国語大学大学院総合国際学研究院准教授。専門はカンボジア文化、文学。
著書は、『カンボジアを知るための62章』(共編著、明石書店、2012年)、訳書に『追憶のカンボジア』(東京外国語大学出版会、2014年)、『萎れた花・心の花輪』(大同生命国際文化基金、2015年)、論文は「保護国カンボジア―クメール語紙『ナガラワッタ』に見られるフランスの存在」(掲載誌は省略、2015年)など。