タイに学ぶSDGsモノづくり

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 岩瀬大地

 A5判・並製・198ページ・オールカラー
 定価2500円+税
 ISBN978-4-8396-0337-3 C0030 Y2500E
             

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SDGs目標
SDGs17の目標


SDGsデザイン
本文画像より

先進国はSDGsをビジネスの手段として考えているだけだ。タイのモノづくりは、何をつくるかではなく、社会や自然環境の課題を解決する手段と捉えられている。私たちがSDGsに真摯に向き合うためには、タイのモノづくりから学ぶことが多い。実際にタイのモノづくりの現場を取材、作品をカラーで紹介すると共に、製作の背景、SDGsとの関連性を明らかにする。


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【著者はこんな人】

岩瀬大地(いわせ・だいち)
東京造形大学造形学部准教授。一般社団法人スペダギジャパン理事。TZU DESIS Lab.ディレクター。タイ国立キングモンクット工科大学トンブリー校建築、デザイン学部客員研究員(2022年〜2023年)。
1977年東京生まれ。2003年東京造形大学造形学部環境計画デザインマネジメント卒業。2013年タイ国立マヒドン大学大学院環境資源学研究科卒業(Ph.D. in Environment and Resources Studies)。
専門:サステナブルデザイン。地域資源、ローカルデザイン、SDGs、東南アジア、多摩地域、竹自転車をキーワードに研究を行なっている。
グッドライフアワード(環境アート&デザイン賞)(環境省)、キッズデザイン賞受賞(経済産業省)・桑沢学園奨励賞受賞。
著書:『竹自転車とサステナビリティ:世界の竹自転車づくりから学ぶサステナブルデザイン』(風人社)


【目次】

はじめに


第1部 SDGsとタイ

第1章 SDGsを問い直す
1. SDGsについて
2. タイにおけるSDGs
3. タイに着目する理由
第2章 現代タイの社会経済と環境・社会問題、モノづくりの現状
1. タイの社会経済
2. 社会経済の発展と環境・社会問題との関係性
3. 社会経済発展ツールとしてのモノづくりについて

第2部 SDGsを促進するタイのモノづくり
シーカーアジア財団
プラントイ
ヨタカ
クオリー
ウィシュラダ
メーティータ
キングモンクット工科大学トンブリー校社会文化イノベーションラボ
メーファールアン財団
チェンマイライフアーキテクツ&コンストラクション

タイに学ぶSDGs モノづくり


【本文より】

 OTOP(オートップ)フェアに行くと、出展ブースの数と商品の多様性および量に圧倒される。自分たちの住んでいる地域にある自然資源やリサイクル資源を活用して、しかも手づくりで、多種多様な生活必需品・衣食住に関するあらゆるモノを生み出すことができる、タイ人の創造力には驚かされる。多くは、有名デザイナーがデザインした「洗練されたかっこいいモノ」ではない。OTOPに共通して見られるモノづくりの特徴は、生産消費者(生産活動を行なう消費者)的な大衆が、自分が住む地域資源(例えば農業残渣等の自然資源やリサイクル資源、伝統文化等の文化資源、人が持つ手技や伝統知識等の社会資源等)から発想し、高価な機械や道具を使わずにつくった「使うためのモノ」であり「これでいいのだ」というデザインである。毎日に使うモノなので、人間国宝による、超絶技巧や熟練技術でつくられている必要はなく、どんどん使って、壊れてもどんどん買い換える。したがって、どれも安価であり、誰でも購入することができる。
 タイでは、手工芸は、美術館や一部の富裕層の家に飾られるのではなく、大衆の暮らしの中で使われ、生きている。地域の自然やリサイクル資源を生かし、多種多様な生活必需品を大衆の手を主体にしてつくる「大衆生産」が、OTOPに見られるモノづくりの特徴なのである。国全体の暮らしを大衆による生産で支えている姿は、モノづくりが中央集権化し、少数の巨大企業が機械を主体にして独占的な大量生産で支えている日本のモノづくりとは違う。筆者は、OTOPのモノづくりを理解する上で重要なキーワードは、タイ語でいう「フィームー」であると考える。フィームーは「手芸」や「手腕」「腕前」といった意味だが、筆者は「手技・手業」(てわざ)と訳したい。フィームー、つまり手に「技」を持っていれば、暮らしの手だてとしの「業(仕事)」を起こすことが可能になり、自由にモノを生み出し、それを売って生活できる。また、自家用に消費することも可能である。地域の自然が供給できる量だけの資源を、自分たちの手がつくれる量だけつくり、売ることができる。このような、地域の環境収容力内での生産活動が、交換価値創造活動でありながら、無限の成長を目指す資本主義の暴走に歯止めを掛けている。そして、OTOPでつくられているモノを見ると、全てが、生きていくのに必要な衣食住に関連した生活必需品ばかりである。経済や政治不安、新型コロナウイルス感染症パンデミック、自然災害、戦争等、社会や世界に何かあった時、身近にある地域の再生可能な自然資源やリサイクル資源を生かして、日々の暮らしに必要な衣食住に関連した生活必需品をつくっていれば、売らなくても自らが消費するために生産することができるし、生活必需品同士であれば物々交換も容易である。市場や貨幣経済に何か起こったときに、いつでも脱市場・脱貨幣経済に移行し、生き延びることができる。
 OTOPのモノづくりで使われている技術や道具を見ると、多くは特別なものではなく、 経済学者のE. F. シューマッハーの中間技術論にあるような、安くて簡単に手に入れられ、小さな規模で応用でき、人間の創造力を発揮させる技術を使っている。大衆のフィームー(手技)を主体にした大衆生産は、高度な知識や高価な技術を必要としないため、誰もが参加できる包摂的なモノづくりとなり、地域の身の丈にあったスローな創造活動となっている。大企業に見られる、競合に勝ち資本蓄積のために、世界中にサプライチェーンを形成し、世界中からかき集めた資源を用いて、ハイテク技術を使って、生きるのに決定的に必要のないエコ製品をフォーディズム66的・排他的・独占的につくる大量生産とは違う。OTOPに見られるモノづくりは、地域資源を自ら、あるいはグループが持つフィームー(手技)で生かすことによって、暮らしの手立てとしての業を起こして生まれている。そして、生産者が自立して、尊厳を持ち、しなやかに生き延びることを可能にするそのモノづくりは、手に技を持った人なら誰でも、気軽に参加できる民主化された創造活動であるため、農村経済の牽引役として機能しているのである。